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トップインタビュー

株式会社大戸屋ホールディングス 代表取締役社長 窪田 健一 氏

平成25年12月、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、国内外問わず、注目度の高い日本の食。和定食チェーンの代表格である「大戸屋」を展開する株式会社大戸屋ホールディングス(http://ootoya.jp/)の窪田健一社長に業界の話・業態の話・会社の話等をお伺いしました。

代表取締役社長 窪田 健一 氏

株式会社大戸屋ホールディングス

代表取締役社長 窪田 健一 氏

平成5年4月  株式会社ライフコーポレーション入社
平成8年10月 当社入社
平成12年4月 第四事業部長
平成19年4月 FC事業本部長兼FC営業部長
平成19年5月 取締役FC事業本部長兼FC営業部長
平成22年1月 取締役FC事業部長
平成23年6月 国内事業本部長
平成24年4月 株式会社大戸屋代表取締役社長(現任)
平成24年4月 代表取締役社長兼国内事業本部長
平成25年4月 代表取締役社長(現任)

抜田 誠司

インターウォーズ株式会社

インタビュアー 抜田 誠司

食品メーカーを経て、黎明期の外食FC本部に参画。研修・業態開発・営業企画等の責任者を歴任。その後、小売業等の新業態開発・外食業態のリブランディング・物流/購買改善等のプロジェクトに携わり、2007年から現職。

抜田 誠司(以下、抜田現会長から引き継ぎ、社長に就任された当時と今を比べ、会社が変わられたのはどのような点だとお考えでしょうか?

窪田 健一 氏(以下、窪田):私が社長に指名されたのは、ちょうど震災直後で社員もショックを受けている状況の時でした。リーマンショック以降、お客様数が減っていた事もあり、『とにかくまず元気を出そう、お客様数を回復させようと声掛けし、目標を掲げて一緒に頑張ろう』とみんなを引っ張っていた覚えがあります。そして、問題・課題は常にありますが、質や中身は変わってきていると思います。
少しでも良くなるよう、改善や再発防止に努めています。数字的に見れば、店舗数や社員数は増えていますね。
また、食の安全・安心への関心が高まっている中、衛生部隊を強くする対応も必要でした。

窪田 健一 氏

抜田窪田社長ご自身が一番変わったと思われるところはどんなところでしょうか?

窪田落ち着いて呼吸ができるようになったという事でしょうか。社長業というのは引き継げるものではなく、なった人の人間性がでてくるもの。自分のカラーを出せばいいんだという事が、ようやく分かってきたからだと思います。20年間、この会社(大戸屋)で創業者と一緒に働いてきましたが、言われた事をおうむ返しにそのまま実行しているだけでは駄目で、自分でやってみて初めて色々な事が腹に落ちて来る。そんな経験を経て、呼吸が整ってきたという事ですね。

窪田 健一 氏

抜田大戸屋業態の強みはどういうところにあると思われますか?

窪田一言で言えば『独自』。店内調理もそうですが、自分たちでやるという事です。

抜田セントラルキッチン方式ではなく、店内調理となると、競合他チェーンで実現できているところはなかなか少ないようですね。

窪田システムのベースが違いますからね。武器となる店内調理のオペレーション、その違いですね。かつおぶしを店内で削って出汁を取ったり、豆腐を店で作ったりしています。しかしながら、クオリティを一定させるのがなかなか難しい。まだまだ課題は多いですね。

抜田相当に細かいマニュアルがあるとお聞きしたことがあります。

窪田ただマニュアル通りにはいかないですよ。当社の考え方として、前提が「マニュアル通りにはいかない」なんです。料理はブレるものですから。ブレる事を恐れるようでは難しいかもしれないですね。ブレないようにという事ばかり気にしていると、結局は効率化が行き過ぎてしまう。もちろんブレ幅が大きくなると、お客様からお代を頂く資格はなくなりますから、ブレを最小限にするためにどうしたらいいのかを考えていった結果、細かいマニュアルになったという事ですね。

抜田ブレない事にこだわり過ぎるのもあまり良くないと?

窪田外食産業、食べ物屋さんが効率的なところにどんどん入って行くと、手作りの良さを捨てて行かなければならなくなってくる。効率化が悪いというわけではなく、突き詰めすぎる事が問題で、そうすると結局、コンビニさんと変わらなくなってしまう。もともと外食産業というのはフルサービス、コンビニさん・スーパーさんはセルフサービスだったわけですが、最近は状況が変化していますよね。外食産業が色々な意味で効率化を図り、セルフサービスに近づいていく一方で、コンビニさんではおでんを店内で作ったり等、店内調理が増えていますし、今までバックヤードを見せないようにしていたスーパーさんも、そこをオープンにして、魚を捌いているのをその場で見せたりなど、いわば逆転現象が起こっています。

食品

抜田その逆転現象についてはどう考えていらっしゃいますか?

窪田外食産業が効率化をやり過ぎると、強みが薄まり、コンビニさんに負けてしまうように思います。社内でもよく言うのですが、日本的なおもてなしには表だけでなく、裏のおもてなしがあると思っています。表というのは、お客様が家にいらっしゃった時に笑顔でお迎えし、熱々の料理をお出しし、というのがそうですね。裏というのは、お客様がいらっしゃる前に、部屋やトイレを掃除して、お茶もお菓子も良い物を用意して、というもの。この裏と表が合わさってこそおもてなしだと思うのです。しかし、効率化を考えると、裏のおもてなしを削らざるを得ない。外食産業からここの手を抜いてしまうと、コンビニさんと変わらなくなってしまいます。そこをオペレーションやマニュアルでどうフォローするのか。何十年も前に当社の会長が言っていたのは『僕らは人間を信じるオペレーション』という事。最初は意味がわからなかったのですが、細かいだけでなく、ブレも含んだ人間的なオペレーションがあっていいのではないかと思いますね。

食品

抜田ところで、色々な見方があるかとは思いますが、大戸屋さんの競合を聞かれたら、何とお答えになりますか?

窪田競合はおかあさんです。おかあさんの手作りの味。大戸屋は家庭食の代行という事でやっていますから。一人暮らしのお子さんがいる親御さんが『大戸屋が近くにあって安心』とおっしゃって下さるのはうれしいですね。それと美味しいお店も競合です。それだけでなく、お客様も競合です。

抜田お客様が競合? それはどういう意味でしょうか?

窪田今は非常に変化が早い時代であり、お客様のニーズの変化も早い。その変化に対して、我々もどう変化していけるかというのが勝負だと思っています。そういう意味で、同業他社を競合として想定するのはあまり意味がない。変わって行くお客様に対して何ができるかという戦いのほうが大変ですから。

抜田海外展開についてお聞かせください。日本だけでなく、海外でも展開されていらっしゃいますが、想定しているターゲットは?

窪田結果として、日本で大戸屋を知っていらしたお客様が入口になり、だんだん現地に馴染んでいくというパターンになっているかもしれません。しかしながら、マーケティング的な発想でターゲットを絞る事はしていません。定食には女性も男性も年齢も関係ないと思っていますので。

抜田アジア圏はもちろん、アメリカにも目を向けていらっしゃいますが、どういう狙いがあるのでしょうか?

窪田アメリカは当社会長が先陣を切ってやっているのですが、ニューヨークの店舗が非常に軌道に乗ってきています。数字を見ると、日販で100万円を超えている店舗が2つある。現地では、行列店になり、大戸屋で食べる事がある意味ステイタスにもなってきているようです。10年、20年前ではできなかったかもしれません。先陣の方々が和食を広めるために頑張ってきてくださった土台があるからこそ、我々の業態でもできたという事ですね。やはり、ニューヨークは情報の発信基地であり、そこでしっかりブランドを作るという事には世界中のどこに作るよりも意味があると思っています。ニューヨーク以外も攻めて行き、10店舗までにするのが目標です。その次はヨーロッパでしょうか。

店舗外観

抜田楽しみです。今後の戦略や目指すところについて伺えますか?

窪田国内は国内で時代の変化をとらえた中でしっかりやっていく事。直営は東京と大阪に集中させ、あとは基本的にFCオーナーさんにお願いする形がいいかなと思っています。また、海外は、タイ・台湾・上海・シンガポール等のアジア地域では、直営できちんと基盤を作った上で、海外のFCオーナーさんに広げて行きたいと思っています。

店舗外観

抜田今、社長が感じられている最優先課題は何でしょうか?

窪田やっぱり人ですね。教育・人材・採用も全て含めて。パート・アルバイトさんの採用はうちでも苦労しています。採用費も増えていますし。研修は相当増えましたが、基本的に、研修は社内で独自に作っています。もちろんマンパワーや経験の部分のフォロワーとして外部も必要ですが、外部に全て委託するというやり方はアウトです。自分たちで作らないと。

抜田外食産業や小売業などの現場を持っている企業さんは、教育の重要性は十二分に理解しながらも、日々の運営で、どうしても後回しになってしまうケースが多いのではないかと思います。

窪田それは仕方ないです。ないがしろにしたくなくても、時代の変化のなかでコストを削らなくてはならない時もありますから。その時々の経営者の判断だと思います。ただ、うちはどうしても手間ひまがかかるオペレーションなので、教育はしっかり手厚くやっていかないと、店内調理の良さが出なくなってしまいます。うちのオペレーションをやる以上、教育費はある程度使ってやっていくという事です。

抜田窪田社長が経営判断をされるときに大切にされていることは何ですか?

窪田難しいですね…。『それが正しいのか』という問いは常に自分にしています。『バランス』も結構気にしています。あと『走りながらやる事』。状況は常に変わります。時間は絶えず流れている訳ですから。走りながら考える、走りながら作り上げて行くように、常に意識してやらなければと思っています。それと、自分自身が素直である事、謙虚である事、誠実である事。素直に考えるというのではなく、物事を素直に受け止める。そうしないと正しい判断ができないと思います。

抜田今後、どういう方と一緒に働きたいと思われますか?

窪田僕も学生時代は志を持てずに生きてきた。そういう人間が社会に出てダメ人間かというと、実は決してそんな事はありません。人を助けようと一所懸命に勉強して弁護士や医者を目指す人もいるでしょう。でもそれ以外なら人生終わりかというと、そうではないですよね。目の前に来ているお客様にきちんとサービスして『美味しかったよ、また来るね』と言ってもらえれば、人の役に立てる。そういう事を学びながら、志を立てて自分の人生を歩んで行く事ができるのが外食産業なんです。この仕事で自分は人の役に立つんだ、そう思えたら自分の人生が輝きだす。自分の存在意義が明確になった時ほどハッピーな事はない。それがあるから苦労も大変な事も乗り越えていけるわけです。それをつかみ取るためには、『この職に就こう』と考えた自分を裏切るような事はしてはいけない。基本的にはどういう人材でも構いませんが、やると決めた以上は右往左往せずにやりきる。その決心・覚悟をして入ってきてくれる方が一番いいかもしれないですね。

窪田 健一 氏

抜田なるほど。

窪田きちんとキャリアを積んでいくために転職するのはいいですが、そうではなく、『天職』を見つけようとして、転々と…というのはどうでしょうかね。天職というものは後からついて来るものだと思うんです。一つの事を始めて、辞めて、ゼロに戻ってというのを繰り返すと、時間が過ぎていくばかり。例えば、歌舞伎俳優さんも小さい頃には迷う事もあったと思うんです。なぜこんなに怒られながら続けないといけないんだろうと。でも教わって行く過程の中で、生い立ちも含めて色々なものを飲み込んだ時に、自分はこれでやっていくという腹決めができるわけです。それをやりもしないで天職探しをしようとするから、みんな迷うのではないかと思います。

抜田最後に社長の夢を教えて頂けますか?

窪田家庭食の代行業として大きくなる事。それで世の中のお役に立つ事。これからは女性活用も政策として進められていますし、少子高齢化で女性もどんどん働くようになる。ただやはり大変ですよね。男女ともに働きながら子どもも育てて行くとなると、家庭のあり方はやはり変わってきます。家庭食の文化も簡略化せざるを得なくなるかもしれない。そうした中で、日本の家庭食のベースを下支えてして行くというのが、世の中の役に立つ一つの方向ではないかと思います。食べに来て頂くだけではなく、例えば宅配のようなところで、今度は我々が家庭に出向いて行く。単にお弁当や健康食を配るだけではない、大戸屋らしいものを模索していきたいですね。

窪田 健一 氏

抜田本日はお忙しい中、ありがとうございました。

インタビュー画像

終始、自然体でインタビューにご対応いただき、ご発言の端々から、(業界の)諸先輩方に敬意を払われており、日々「感謝の気持ち」を抱きながら、経営されている方なのだと感じました。
窪田社長の強烈な推進力で、今以上に国内・海外で「大戸屋」ブランドが広がり、「和食」「日本の食」に対する注目度・評価が益々上昇されることを楽しみにしております。
窪田社長、この度はありがとうございました。今後とも、宜しくお願いいたします。