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トップインタビュー

インリー・グリーンエナジージャパン株式会社 代表取締役 水田 昌紀 氏

太陽光モジュールのリーディングカンパニーであるインリー・グリーンエナジージャパン株式会社(http://www.yinglisolar.com/jp/)。
2010年、2014年のFIFAワールドカップのオフィシャルスポンサーとしても世界中で知られています。生産量世界一、垂直統合型の生産工程を実現しているモジュールメーカーである同社の水田昌紀社長に、今後の展開についてお話をお伺いしました。

代表取締役 水田 昌紀 氏

インリー・グリーンエナジージャパン株式会社

代表取締役 水田 昌紀 氏

2000年 上智大学外国語学部卒業
2000年 株式会社マクニカ 入社
2010年 ボンドBBT大学院で経営大学院修士号(MBA)取得
2012年 インリー・グリーンエナジージャパン株式会社 代表取締役社長

小黒 力也

インターウォーズ株式会社

インタビュアー 小黒 力也

理系大学院修了後、国内系シンクタンクに入社し、金融機関向けのシステム開発に従事。ヘッドハンティング業界に転じ、IT部門のマネージャを経て、現職。

小黒 力也(以下、小黒まず御社の事業の内容を教えていただけますでしょうか。

水田 昌紀 氏(以下、水田):基本的には太陽光モジュールの製造メーカーです。中国の本社でモジュールを製造し、それを世界で販売するという事業になります。

小黒:水田社長がインリー・グリーンエナジージャパン(以下、インリージャパン社)に参画されることになった背景や、参画を決められたポイントについて教えていただけますか。

水田震災後に再生可能エネルギーのFIT(固定価格買い取り制度)ができたことをきっかけに、インリー・グリーンエナジー本社が、日本への本格参入を決めました。
それまでも代理店経由で販売はしていたものの、あまり売上は上がっていませんでした。
日本参入のための人材募集がLinkedinでかけられていたのをたまたま私が目にしまして、面談を受けて決まったという形です。

水田 昌紀 氏

小黒:他にもいくつかの事業を見られていたと思うのですが、インリージャパン社に決められたのはどういう理由があったのでしょうか?

水田半導体の商社にいた10年ほど前に、自分が販売をするのであればCO2低減につながるものを手掛けたいと考えるようになり、そこから色々な事を始めました。そういう観点で言いますと、中国メーカーだからだとか太陽光だからということよりも、チャンスがあればCO2低減に関わる事をとにかくやってみたいと思っていたので、ラッキーな出会いでしたね。

小黒:中国の会社についてはなかなか情報がなく、よくわからないという方も多いと思います。インリー・グリーンエナジー社は、ニューヨーク証券取引所で上場されていますが、どのような会社なのかを教えていただけますか?

水田基本的にはオーナー企業です。創業者が今もトップの座にいます。87年に化粧品の輸入販売事業でスタートし、98年から太陽光の事業を始めたのですが、市場的にも技術的にも非常にタイミングがよくて、どんどん成長しました。中国本社はかなりオーナー色が強いのですが、海外の事業所に関しては、現地で責任者を選んで、それぞれに全てが任せられています。日本オフィスもそうですね。
また、今14の海外拠点がありますが、一つも撤退していないのも特徴です。例えばスペイン。2007年にできた買い取り制度が政府の都合ですぐ廃止になりスペインでの市場は現在ほとんどないのですが、今もスペインにオフィスがあり、ヨーロッパのラボとしての役割や、言葉が近い南米、またアフリカのマーケットにも積極的に打って出ています。最近の話ですが、スペインの支社が日本で発電所を作るという案件もありました。撤退しない、つまり海外のオフィスに関しても最後まで面倒をみるという覚悟や、従業員に対しての信念がある会社だと思います。

水田 昌紀 氏

小黒:オーナーは水田社長からみてどういう印象の方ですか? 日本にはよくいらっしゃるのでしょうか?

水田粘り強い方ですね。またオーナーは、日本にということではなく、基本的にあまり人前に姿を見せない方です。No.2の人間に営業関係やとり回しを全部任せて、要所要所で出てくるイメージですね。

小黒:日本法人に対して中国本社は何を求めているのでしょうか?

水田日本市場は、売電単価も世界ではトップクラスで、また買い取り制度も継続しています。一方で人件費や物価もデフレとはいえ、まだまだ高い状況です。そういう点で、弊社製品は日本のメーカーに比べて値段の優位性が出しやすい。中国本社から見ると利益面が確保できる市場だと見られていると思います。

小黒:他国の支社とのやりとりもあるのでしょうか?

水田ありますね。日本の太陽光業界では、多分代表として私が一番若いと思いますが、インリー全体がアメリカやヨーロッパでも若手を登用していますので、横同士の連携はかなり強いですね。

小黒:基本的に日本での展開は日本法人にお任せということでしょうか?

水田もちろん四半期に一度はミーティングを設けて、お互いにチェックを入れています。しかし、突然本社からトップが乗り込んできて裁量権を奪ってしまい、日本法人がやる気をなくすというようなことは、全くないですね。

小黒:日本法人は初年度からかなり成長著しいですが、今後もさらなる高みを目指されるのでしょうか?

水田今の市場自体、バブル的要素が強いことは否めません。
またメガソーラーに関しては、買い取り制度が残るかどうかというより、土地自体がなくなってきているのも問題です。電力会社の受変電設備も限界が近い。メガソーラーの市場自体、おそらくここ1~2年くらいで、新規案件は減っていきそうですね。ただ工事はその後も続くので、長ければ5~6年は工事用のモジュール販売は続くと思います。
メガソーラー以外の新しい市場としては、家庭用市場や東南アジアなどを積極的に目指しています。

水田 昌紀 氏

小黒:現状、メガソーラー事業と一般住宅の事業の割合はいかがですか?

水田もともとメガソーラー体制のメーカーでしたので、家庭用は後手になっており、そこを一気に飛躍するために、色々な手を考えています。今はおそらく95%が産業用だと思うのですが、来年末までには、全体の15~20%くらいを家庭用にしていきたいですね。

小黒:メガソーラー事業はどのように伸ばされてきたのですか?

水田今までは土地の地権者や、大手から小規模までの工事業者、案件を買いたいという投資家と組んで事業を伸ばしてきました。

小黒:日本でメガソーラー事業を行う上で、他のメーカーではなく、御社が選ばれてきたのはなぜでしょうか?

水田一番大きいのは日本の国内銀行が弊社のモジュールでお金を貸すかどうかということですね。大規模な案件で銀行がチェックするのは、工事会社とモジュールメーカーです。中国のモジュールメーカーでもここはダメ、ここはダメというのがあるのですが、弊社はおそらく今のところ、中国メーカーの中では一番バンカビリティがあると思います。太陽電池モジュールからシステムまで作っていること、そして世界一の販売量がある点が評価された結果ですね。

小黒:去年の10月に楽天ソーラーさんと提携なさいましたが、一般住宅用では何社くらいのパートナー企業と取引されているのでしょうか?

水田一番の大手は販売代理店として日本でトップクラスの業績があるエクソルという会社です。あとは住友商事関連の住商メタレックス、楽天ソーラー、蝶理の4社が主要取引先になります。
また50kW以下の案件は工事ごと請け負うようにしており、最近では工事事業やメンテナンス事業もスタートしています。

水田 昌紀 氏

小黒:日本では安心、安全を気にされる顧客が多いと思いますが、御社が日本のマーケットで展開していく上で一番心がけていらっしゃることは?

水田結局はサービスによる差別化ですね。『最後は人』とよく言われますが、採用にかなり力を入れています。また日本独自で必要なサポートもあるので、そこはきちんと一つずつクリアしていくようにしています。

小黒:直流を交流に変換するパワーコンディショナーや架台などは、別のメーカーの製品を取り扱っていらっしゃるのですか?

水田インバーターであるパワーコンディショナーは日本メーカーのものを使っていますし、モジュールを設置する架台もそうです。住宅に関してはホームネットワークワービスやHEMSなどについても、今、パートナー企業と構想を練っています。

小黒:新聞で御社の10年保証のことを拝見したのですが、メーカーとしてどこまで保証するのか、施工会社、販売会社それぞれがどう担当するのか教えてください?

水田基本的にはシステムの保証ですね。パワーコンディショナーと弊社のモジュールと架台。その3つに10年の保証を付けます。過去には世界一になったメーカーが倒産したり買収されたりというケースがありましたので、万が一、モジュールメーカーが倒産したらどうなるのかということを気にされる方が日本では非常に多い。万が一そういう事態になっても、保証会社が保証をし続けるスキームを作るなど、日本の企業独特の要求に答えていくためのサービスは不可欠です。

小黒:国策も絡み、グローバルでも主力プレーヤーが入れ替わるなど、移り変わりが激しい業界ですが、マーケットをどう捉えていらっしゃいますか?

水田基本的には政府の政策によるとは思います。ドイツが非常にいい例なのですが、ドイツは電力買い取り制度を作ったことで電気代金が上がりすぎて問題になっていると言われることがあります。一方において、それは太陽光システムを購入し、自家発電をしたほうが安いという世界ができあがりつつあるのだとも言えます。買い取り制度に頼らずとも、どんどん太陽光発電の販売が進んでいく。そういう状況になれば、太陽光発電の技術的革新も生まれ、価格やコストが下がって、導入も進む。その結果CO2の低減につながる。そういったことが日本で起こる可能性は、非常に高いのではないかと思います。

水田 昌紀 氏

小黒:現在の日本の業績は如何でしょうか?

水田ミニマムターゲットの売上が約300億円、ストレッチで約350億円まで伸びると予想しており、これはほぼ達成できると思います。具体的な数字は言えないのですが、利益に関しては、世界市場の中でも一番利益が上がっているマーケットの一つでもあります。

小黒:昨年はグローバルの利益は赤字でしたが、これはどう捉えていらっしゃいますか?

水田おっしゃる通り、2012年、13年は厳しい年でした。とはいえ赤字になったその時期に、生産拡張ラインにも投資をしています。そういったメーカーは他にはなく、弊社だけが行いました。そういう意味では、設備投資は終わっていますので、これからはその強みが発揮され、もっと利益を出せると思います。利益改善では他社に遅れをとりましたが、今クォーターから、四半期ベースでは黒字になる予定です。

小黒:日本法人としての数字はいかがでしょうか?

水田グローバルで4ギガワットという数字に対して、我々が15%前後になると思います。通常10%取れれば合格と言われているので、これは非常に悪くない数字ですね。

小黒:グローバルの中でも注目されている日本法人ですが、今後も日本のマーケットを掴む上で、これができたらという課題はありますか?

水田我々より長くやっていますから当然なのですが、やはり日本メーカーのサービスは充実しています。一方で我々の目から見ると、もう少し効率をあげたり、コストをかけずにやれるのではないかと思うところも確かにあります。また、日本のメーカーは気が付かなくても、新規参入者だからこそ気付く点もあります。そういった一歩先をいく付加価値が今後は重要になるのではないでしょうか。システムやインターネットを使ったサービスをいかに充実させるか。そういったサービスを充実させることで、モジュールの販売量も上がると思っています。今、そこに向けてメンバーと取り組んでいるところなので、年末までには手応えを掴みたいですね。

水田 昌紀 氏

小黒:水田さんの経営のポリシーを教えていただけますか?

水田会社には、従業員とお客様と株主という側面がありますが、従業員を大切にすることによってお客様との信頼関係が構築され、そこに対して利益が生まれ、その結果、株主も喜ぶ。そういうことを常に意識しています。
社内的に言うと、『会社としての決まり』『報酬をどう還元するか』『従業員の方々が自分たちで文化をどう創るか』の3つの要素が非常に大切だと思っています。もちろん業種によって割合を変える必要はあるでしょう。例えばファストフードビジネスでしたら、『決まり』の部分を増やさなければ品質問題につながりますから、自由度はあまりなくなると思います。しかし我々に関して言うと、人が作る文化の部分を50~60%、決まり事を20~25%、残りを報酬の部分というバランスにしたいですね。

小黒:社員同士が週1回勉強会を開いていると伺いました。アグレッシブで、ポジティブ、熱心な人が多い印象ですが、どのような人がいらっしゃいますか。

水田採用の観点としては経歴や学歴より、人の力、組織の一員としてやってもらえるかということと、地頭的な頭の良さ、つまり自分でどこまで考えられるかをかなり重視しています。それに付け加えると運のいい人。私は運というのはコントロールできるものと思っていますので、そういう運ですとか人を惹き付ける何かがあるという要素は、真面目に勉強してきたという要素よりもビジネスでは大事かなと思います。

水田 昌紀 氏

小黒:御社には女性も多い印象を受けますが、平均年齢や、男女比、国籍などを教えていただけますか?

水田社員数は40名。平均年齢は30代前半、33歳くらいでしょうか。男女比はほぼ5:5ですね。中国籍の方が全体の20%ほどで、マレーシア、カナダの方もいます。全体の約25%が外国籍の方。社内では日本語、中国語、英語が飛び交っています。みなさん非常に優秀です。

小黒:社員になる方に求める人柄、能力をお聞かせください。

水田チャレンジ精神がある方。人生において、プライベートも含めてですが、自分が何をやりたいかをしっかり持っている方。それから裏表がないと言うか、良い意味で素直さのある方ですね。

小黒:最後になりますが、水田社長の今後の夢、そして今後、御社を受ける方へのアドバイスやメッセージを教えていただけますか?

水田会社としての夢は、無駄なCO2を低減し続けるということです。そのために様々なことを考えているので、10年後ぐらいには、それが一つでも形になってくれるといいと思います。また弊社に興味を持たれた方に言いたいのは、中国企業ということで不安を覚えられる点もあると思いますが、その不安よりも好奇心を感じられるのであれば、ぜひ面談に来て頂きたいということ。そこで弊社のことをよく見ていただければと思います。

小黒:本日はお忙しい中、ありがとうございました。