トップインタビュー
オイシックス株式会社 代表取締役社長 高島 宏平 氏
「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を企業理念とし、「つくった人が自分の子供に安心して食べさせることのできる食品」という基準で厳選した食品販売を行うオイシックス株式会社(http://www.oisix.com/)。
同社の課題や今後の展望について、高島宏平社長にお話をお伺いしました。
オイシックス株式会社
代表取締役社長 高島 宏平 氏
1973年8月15日 神奈川県生まれ
1998年3月 東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了
1998年4月 マッキンゼー日本支社入社
※マッキンゼー東京オフィスにおいてEコマースグループのコアメンバーの一人として活躍。とくに、Eコマース実行の組織体制やベンチャーと大企業の共存によるEアライアンスの構築について取り組む。
2000年5月 同社退社
2000年6月 「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を企業理念とし、食品販売・食生活サポートを行うオイシックス株式会社を設立し、同社代表取締役社長に就任。生産者の論理ではなくお客様の視点に立った便利なサービスを推進している。
2005年 日本オンラインショッピング大賞・グランプリ受賞
2006年 Entrepreneur Of The Year Japanファイナリスト
2007年 企業家ネットワーク主催「企業家賞」受賞
2007年 「ヤング・グローバル・リーダー2007」で世界のリーダー250人に選出される
2007年 起業家表彰制度「DREAM GATE AWARD 2007」受賞
2008年 「ポーター賞」受賞
2011年 日経ビジネスオンライン主催「CHANGEMAKERS OF THE YEAR 2011」受賞
インターウォーズ株式会社
インタビュアー 小黒 力也
理系大学院修了後、国内系シンクタンクに入社し、金融機関向けのシステム開発に従事。ヘッドハンティング業界に転じ、IT部門のマネージャを経て、現職。
小黒 力也(以下、小黒):まずは、御社の事業内容を簡単に教えていただけますか?
高島 宏平 氏(以下、高島):当社では、体のことを考え、安全性に配慮した美味しい食品、具体的に言いますと、有機野菜などの特別栽培農産物や無添加の加工食品などを、インターネットを中心に一般のお宅へ販売、お届けするという事業を行っています。
小黒:設立の経緯をお聞かせください。
高島:学生時代にベンチャー企業を一緒に立ち上げたメンバーを中心に、2000年6月にオイシックス株式会社を設立しました。前職でもインターネット事業の立ち上げに関わっていたこともあり、何かインターネットを使ったビジネスをやろうという発想が始まりでしたが、その中でも、社会インフラのように、無くてはならない、そして社会にインパクトを与えられそうな分野として「食」に行き着きました。例えば、食品における一般的な流通プロセスでは、生産者と消費者の距離が非常に遠いのですが、ネットを使えばそのプロセスを簡単に省略し、直接両者を繋げることが出来るだろうと思ったのです。
また、まだ実現できていない部分もありますが消費者1人ひとりに栄養管理士が付いているようなイメージで、よりパーソナルな情報をお届けすることが出来るのではないかと考えました。そのように、ネットとの親和性が非常に高いということも「食」を選んだ理由です。
また、当時はネットビジネス先進国のアメリカでも成功事例がなかったので、上手くいったら自分たちが世界初になれるんじゃないかとも考え、立ち上げに至りました。
小黒:現在の御社の従業員数、及び事業規模はどのくらいでしょうか?
高島:今は150名くらいです。
事業規模に関しては、2011年3月時点で、売上高80億を越えており、毎年2桁以上の成長を続けています。
小黒:それはすごいですね。ちなみに、御社のサービスを利用されている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?また、そのうち定期購入をされている方の人数も教えてください。
高島:これも同時期のデータですが、これまで当社のサービスを利用し、ご購入いただいた方は60万人くらい、そのうち定期購入されている方が、約4万8000人いらっしゃいます。
小黒:近年、実店舗も二子玉川、恵比寿でオープンされていますが、ネットでのサービスと実店舗ではユーザー層が大きく異なっていると思います。その点に関して、今後の展開としては、どのようにお考えですか?
高島:おっしゃる通りユーザー層は異なりますが、あくまでもメインのお客様は、小さなお子様をお持ちの若い主婦の方だと考えています。実は、そこのマーケットだけでも今の10倍くらいのオポチュニティがありますので、今後もその層へのアプローチを積極的に行っていくつもりです。
実店舗を始めたことによって、普段ネットを利用されないご高齢のお客様などにも初めて出会い、ご利用いただきました。もちろん、そういったご高齢のお客様やご夫婦2人暮らしのお客様などにも、ネットなのか実店舗なのかの検討も含め、サービスの提供を考えていかなければいけないと感じています。
小黒:これまで世界に同じビジネスで成功の事例がないとおっしゃっていましたが、御社のサービスを望む、海外在住の日本人や海外の方がいらっしゃると思うのですが、今後のグローバルへの展開という部分では、どのようにお考えですか?
高島:香港では既にオイシックスのサービスの提供がスタートしています。今後も商品の輸出をベースとして考えるとどうしても近郊になってしまうのですが、東アジアなど、特に台湾、シンガポール、中国本土への展開は十分にチャンスがあると思っています。
ヨーロッパやアメリカなどの場合は、恐らくサービスそのものよりもビジネスモデルの展開だと思うのですが、当面の優先順番としては、まずは日本国内、その次にアジアかと考えています。
小黒:現在、高島社長が感じていらっしゃる課題は何かありますか?
高島:課題と言いますか、チャレンジしないといけないと感じていることがあります。現在私達が提供しているものはご存知の通り、自然食品であり、安心安全な食品を売っているのですが、どうしても『自然食品業界』というとニッチな産業に属していると言われてしまうんですね。”安心安全な食べ物”がニッチだと言われるのは、おかしな世の中だと思いますし、決して幸せな状態ではないと感じます。
ですから、私達のチャレンジというのは、そんなニッチをマスにしていくことだと思っています。おかげ様で会社としては拡大してきていますが、まだまだ不十分ですし、決してニッチの領域の王者になりたいと考えているわけではありません。
皆さんが安心して「おいしいものを食べたい」、あるいは「子どもに食べさせたい」と思うものが手軽に手に入る世の中にしていきたい。そのためには、これからのチャレンジが重要で、私達はその挑戦権を持っている数少ない会社だと思っています。
小黒:そもそもビジネスとして、人が生きていく上で大変重要な「衣食住」という分野に魅力を感じる方は多いと思いますが、高島社長の、特に「食」に関わる想いや魅力を教えてください。
高島:衣食住に共通して言えることは、人間の根幹に関わることなので、当社に限らず、もっと優秀なタレントがいなくてはいけないと思っています。当たり前ですが、食べ物がなかったら困る訳ですよね。特に震災を機に、これまで当たり前だと思っていたことが本当はそうではないということを、首都圏の人も身を持って体験しました。
実際、食の領域というのは、非常に大きな課題をはらんでいます。例えば東京は世界でも最も美味しいものが味わえる都市と言われていますが、そんな都市の食を支えているはずの農業従事者や漁業従事者の皆さんは、ビジネス的に厳しい状況にある方が多いのが事実です。それだと、サプライチェーンとして成り立たないんですよね。消費者には安価であるほど喜ばれるかもしれませんが、このままの状態ではいつまでも持たないでしょう。
また、先ほど申し上げたように、食べてはいけないものがマスという状況を変えるのは相当のパワーが必要で、当社が出来なかったら、恐らくしばらくは誰も出来ないかもしれないという勝手な使命感をもっています。ですから、そこはチャレンジとしては非常に大きいと思っています。
ちなみに、ビジネスにおける食品事業ならではの魅力というと、食欲を満たすことが出来るという一面がありますね。仕事の中で、美味しいものを食べられる機会は多いですし、食に関する美味しい情報もたくさん入ってきますし、美味しいものを見極める力というのが当然付いてきます。一般的には食欲に限らず、人間の根本的な欲求は、仕事で得たお金で満たすことが多いかと思いますが、当社の場合は、仕事の中で得ることが出来るという訳です。
小黒:高島社長が、社員に求める資質や考え方を教えてください。
高島:私自身、成長力がとても大事だと思っています。会社自体が、かなりの変化途上であるので、昨年求められていたことと今年求められていることが大きく異なることもあるんですね。そうすると、当然そこで働く個人にも求められるミッションが大きく変わってきます。それに対して、どれだけ柔軟に、そして素直に新しいチャレンジが出来るかということがとても大事になってくるので、過去の経験はもちろんあったほうがいいですが、それに凝り固まって成長出来なかったり、変化に対応出来ないというのでは困ります。それであれば、経験は何もないけれど変化に死に物狂いで付いていきます、という考えを持っている方がいいですね。ベンチャー企業の特徴だと思いますが、変化への対応が上手で、変化に応じて自分を成長させられるかというのがキーだと思っています。
小黒:社長が20代や30代前半の頃に、「これをやっておけば良かった」というような、後悔していることは何かありますか?
高島:そうですね。外国に行っておけば良かったと感じています。
今になって語学の問題で苦労をしていて、外国語での会議にも参加するので、どうしても海外に住んだ経験がないというのはハンデになっていると感じています。>今であれば、アメリカやイギリスではなく中国やインドが良いかもしれないですが、そういった海外での生活を、経験しておけば良かったと後悔していることですね。
今は海外に出向くことも増えましたが、外国の方とビジネスを進めていくためには、英語力だけではなく、わざと空気を読まない力というのも大事だと感じるようになりました。外国で鍛えられた空気を読まない力というのは、日本の文化においては結構な武器になると思います。
小黒:先々のお話ですが、今から30年後に、社長ご自身は何をされていると思いますか?
高島:何か、新しいベンチャーをやっているかもしれませんね。実は、70歳になったら何か新しいビジネスを立ち上げようかと思っているんです。例えば70歳以上のシニア限定の会社を作り、発明ベンチャーみたいなことが出来たら良いですね。何かしらのチャレンジをしていると思います。
小黒:最後に、御社に興味を持たれている方へのメッセージをお願いします。
高島:当社は今年で会社設立から12年になりますが、現時点において、何か守るものがある存在になったとは思っていません。先ほど申し上げたように、私達はニッチの有力プレイヤーを目指しているわけではないので、その座を守ろうという意識はありません。勝手な使命感なのですが、私達が日本の食品業界を変えないと、他の誰も変えられないと感じているので、挑戦するしかしないと思っています。
ですから、そこそこ安定していて美味しいもの食べられそうな会社だと考えている人には向いていません。むしろ、人に指図されるのは嫌いで自分で立ち上げからやりたい、課題が大きいほど燃える、というような人に向いていると思います。
設立から現在まで12年が経ちましたが、私達はこれからもチャレンジを続けます。ただ、これまでとは少し異質な、例えば第二創業と言えば良いでしょうか、そんな環境でチャレンジをしたいと考えている方は是非一緒に頑張りましょう。
小黒:本日はお忙しい中、ありがとうございました。