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サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久 氏
1997年設立、2000年マザーズ上場、2002年東証二部に市場変更、2006年東証一部、そして、今年で創業10周年を迎え、その区切りの年に『国内グループウェア最大手』に登りつめた「サイボウズ株式会社」の青野慶久(本名:西端 慶久)社長(以下、青野社長)にお願いしました。
同社の歴史・概要・今後を青野社長にお聞きしました。
サイボウズ株式会社
代表取締役社長 青野 慶久 氏
1994年 大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工株式会社入社
1997年 サイボウズ株式会社設立、取締役副社長に就任
2005年 代表取締役社長就任(現任)
インターウォーズ株式会社
インタビュアー 抜田 誠司
食品メーカーを経て、黎明期の外食FC本部に参画。研修・業態開発・営業企画等の責任者を歴任。その後、小売業等の新業態開発・外食業態のリブランディング・物流/購買改善等のプロジェクトに携わり、2007年から現職。
抜田 誠司(以下、抜田):まず、青野社長の大学卒業後から、2005年4月に「サイボウズ株式会社」の代表になるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。
青野 慶久 氏(以下、青野):大学卒業後、松下電工に1994年に入社して、最初の2年間は営業の技術支援をしていました。その片手間に社内のネットワークを作っていたのですが、本業よりも、そちらの方が面白くなって、社内ベンチャー子会社(システムインテグレーター)の立ち上げに手を上げて、その設立メンバーの10人のうちの一人になりました。一年間、その会社でシステムインテグレーターをやっていたのですが、そのうちにソフトの会社をやりたくなって、今度はスピンアウトして、1997年に「サイボウズ」を3名で立ち上げました。その時は、私が社長ではなく、副社長として「マーケティング~販売」を担当していました。その後、7年半経った時、当時の社長が去ることになり、私が引き継ぎました。それが約2年半前のことです。
抜田:代表を引き継がれた際に大変なご苦労があったと思いますが・・・
青野:社員が辞めてしまったことが一番辛かったです。それは、前社長が退任したということ、ちょうど会社が変革期で体制を見直したということ、ストックオプションの行使可能時期が重なって、社歴の長い社員中心に、85名いた社員の内20名強がこの一年間で辞めていってしまいました。それが私にとっては精神的にヘビーな出来事でした。今まで一緒に頑張ってきたのに・・・って。
抜田:それは残念ですよね・・・。ところで、創業時の事業領域を「グループウェア」にしたのはなぜですか?
青野:自分がお客様だったら、こういうものが欲しいと思ったからです。
私が社内のネットワーク管理の仕事をしていた時に、グループウェアの機能は大変便利だと感じて、一度導入したのですが、あまり使ってもらえず、定着しませんでした。導入した側としては虚しかった・・・失敗ですよね。何で使ってもらえないかと聞いたら、「重たい」とか「習慣化されてない」とか・・・楽しく使ってもらえなかったわけです。
そこにインターネットの技術が来て、ウェブブラウザを使えば、簡単に情報共有ができるということがわかって、「これをイントラネットに持ち込んで、社内のグループウェアを作れば、ITに慣れていない方でも簡単に使ってもらえる」と。
抜田:そのようなお考えで始められた事業が、業界のガリバー企業に代わり、『国内グループウェア最大手』になられましたが、シェアを逆転できた要因は何だとお考えですか?
青野:たくさんのお客様を意識しているとことがあげられると思います。欧米から入ってくるソフトは機能が多いけれども、ITに不慣れな人を意識して作られていないので、そのまま日本に持ってきても、使いきれない人が多いのではないかと思います。逆にサイボウズの場合はITが苦手な人を前提に作られたソフトなので、裾野が広いのです。誰でも導入できて、誰でも使えるというところがシェアを逆転した大きな要因だと考えています。
抜田:前の質問と重複するかもしれませんが、サイボウズ社の「強み」は何だとお考えですか?
青野:サイボウズ社員の思考特性としては、「より簡単に」「よりわかりやすいものをつくろう」それを「よりわかりやすく伝えて、よりたくさんの人に使ってもらおう」ということがあげられると思います。ですので、使いやすい、わかりやすい製品が作れますし、わかりやすい説明をしたり、広く伝えることが得意ではないかと思っています。
抜田:現在、特に注力しているところはどこですか?
青野:今、特に「強化したい」と問題意識を持っているのは「販売部門」です。「大手企業に営業できる営業力」を身につけなければと思っています。サイボウズはもともと中小企業を対象にシェアを伸ばしてきましたが、最近、ソフトがどんどん進化して、大企業でも導入いただけるようになってきました。
グループウェアというソフトの面白いところは、中小企業も大企業も使い方はほとんど変わらない。だから、ターゲットによって製品を大きく変える必要が無く、多くの顧客にアプローチができるのです。
実際、先般、岡山県庁の16,000ユーザー様に導入いただきました。しかしながら、大企業に売っていく力があるのかというと、今まで営業したことがないのです・・・。
抜田:現在の御社の課題は何だとお考えですか?
青野:これから取り組まなければいけないと思っているのは、海外へどのように事業を転換していくかということです。国内のグループウェア市場はそんなに大きくないので、成長が限られてきます。より一層の事業拡大を考えると、海外進出は必須だと考えています。ちょうど今年の6月に上海に「「才望子信息技術 (上海) 有限公司 (通称: サイボウズ上海)」という子会社をつくって、第一歩を踏み出したところです。
抜田:なるほど。今お話いただいた現状の御社が、向かっているのはどのような方向でしょうか?
青野:「グループウェア事業」に今一度集中していこうと考えています。昨年・一昨年とM&Aで色々な可能性を模索してみましたが、やはり、我々のグループの強みは「本業にあり」と思っていますので、一度リソースを集中させるような活動をしていこうと考えています。リソースを集中させるということは、「グループウェア世界一を目指す!」ということです。3年・4年でそれが実現できると思っておりませんので、短期的目標ではなく、今後10年くらいのイメージをしています。
抜田:楽しみですね!まずはアジアからとお聞きしておりますが、それはなぜですか?
青野:二つの理由があります。
一つは「日本と文化が近い」ということです。個人主義が強いとメールが重宝されます。組織として取り組む文化のアジア圏の方がグループウェアは向いていると思っています。
もう一つは「競合」という視点です。欧米には既に強い競合がたくさんあり、これをひっくり返すというのは容易ではありません。アジアの方が手をつけられていない市場が多くあるのです。リプレイスではなく、「サイボウズの製品を新規で」という売り方ができる。この二点で「アジアから」と考えています。また、海外向けの「営業手法」や「製品のカスタマイズ」はこれから進めていこうと考えています。
抜田:「グループウェア世界一を目指す」ために、一番必要なことは何だとお考えですか?
青野:我々はメーカーですので、「世界に通用する製品を作れるか」が勝負だと考えています。このパッケージソフト業界においてのグローバル企業は世界でも数えるほどですが、日本発では無いと思っています。ですので、どうにか「世界で通用する製品を作りたい」。そ
抜田:青野社長が経営をされていく上で大事にしていることを教えていただけますか?
青野:絶対にベースとして持っておきたいのは「誠実さ」です。後ろめたいことは一切しない。これがなくなった瞬間に、永続できなくなると思っています。一生懸命頑張っても、失敗することはたくさんあると思います。時には、頑張ろうという気持ちが失せることもあると思います。そのときも、「誠実」であり続けられるか。「誠実」でいれば、困ったときに誰かが助けてくれると思っています。それが無くなった瞬間に、私達が私達でいられなくなってしまう。長い目で見ると「誠実であること」が成功の秘訣だと思います。
抜田:青野社長の夢は何ですか?
青野:サイボウズ製のグループウェアが世界で一番使われている状態を作ることです。イメージとしては、地球を外から見て、『サイボウズ製品を使っている人、手を上げてください』といったら、世界各国から’ワサワサ’と手が上がる状態を作りたいです。まだ今は日本の一部からしか手が上がらないと思いますけど・・・(笑)。
そういうイメージを作りたいですね!
抜田:サどのような方にサイボウズに参加して欲しいですか?
青野:「誠実な方」ですね。そして、ご縁があってサイボウズに入っていただいた方には長く働いてもらいたい。何故かというと、メーカーという立ち位置は、1年や2年でいいものが作れるわけではないので、10年20年同じものを作り続け、売り続けて、ようやく成果が出るものだと思っているからです。ですので、長期で働くというところに共感をしていただけるかどうかを重視します。
抜田:最後に、現在、転職をお考えの方へアドバイスをお願いします。
青野:「自分が一番こだわりを持っているのは何なのか」ということを決めてから、探される といいと思います。例えば、給料なのか、仕事内容なのか・・・それがブレると失敗してしまうと思います。
抜田:本日はありがとうございました。
青野社長は、一つひとつの質問に、まさに「誠実」にお答えいただき、不勉強の私にも大変わかりやすく、あえて難しい言葉を使わずにお話しいただきました。近い将来、世界各国からサイボウズユーザーの手が’ワサワサ’と上がり、「グループウェア世界一」を実現される日が、今からとても楽しみです。
青野社長、この度は大変お忙しい中、お時間をいただき、誠にありがとうございました。
また近いうちにお話できることを楽しみにしております。