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株式会社カクヤス 代表取締役社長 佐藤 順一 氏
1921年創業、東京23区を中心に『いつでも』『どこへでも』『どれだけでも』をキーワードに快進撃を続ける「株式会社カクヤス」の佐藤順一社長(以下、佐藤社長)にお願いしました。
入社当時、社員16名の小さな酒卸だった「カクヤス本店」を今や700億企業「株式会社カクヤス」に変貌させた佐藤社長に、同社の「今まで」「今」そして「これから」をお聞きしました。
株式会社カクヤス
代表取締役社長 佐藤 順一 氏
1981年 合資会社カクヤス本店
1982年 合資会社から株式会社
1993年 3代目代表取締役社長
2000年 店名を「大安」から「カクヤス」に変更
2002年 商号を「株式会社カクヤス」に変更、事業名を「なんでも酒やカクヤス」に統一
インターウォーズ株式会社
インタビュアー 抜田 誠司
食品メーカーを経て、黎明期の外食FC本部に参画。研修・業態開発・営業企画等の責任者を歴任。その後、小売業等の新業態開発・外食業態のリブランディング・物流/購買改善等のプロジェクトに携わり、2007年から現職。
抜田 誠司(以下、抜田):佐藤社長は3代目の社長でいらっしゃいますが、大学卒業後、家業を継がれるのか、外部の企業に出るのか迷われたのではないですか?
佐藤 順一 氏(以下、佐藤):父親から「酒屋を継げ」とずっと言われていて、そんな父親から離れたくて、茨城の大学に行きました。でも、「とは言っても」という部分もあり、「なしくずし的」に入社したんです(笑)。通常、酒屋を継ぐ人はビール会社に3年位、修行に出されるんですけど、ギリギリまで「継ぐ」ことを決めなかったので、ビール会社にも入れませんでした(笑)。
道筋があるからこそ、「決めないとそうなる」ということですね。
抜田:入社後は当然、現場からのスタートで、社長に就任されるまで、様々な業務をご経験されたと思いますが、中でも社長のコアになる業務は何だったのでしょうか。
佐藤:全てですね。私が入社した時は16・7名の小さな会社でしたので。「社長の息子が入ってきたから、なんでもやらせればいい」という形だったので、朝一番の留守番電話聞きから、伝票起こし、荷物積み、配達、荷物降ろし、夜からの代金回収というのが日常で、毎日睡眠3時間位でしたね(笑)。確かに体はきつかったですが、精神がきついよりはいいですよね。そして、段々給料も〆るようになり、お金勘定や営業もするようになりました。
中でもきつかったのは、お客様へのご挨拶回りでした。一軒でも辛いのに、一日三軒、四軒と回るわけです。当時はお酒が飲めなかったので、当時の私には恐怖でした(笑)。
抜田:1998年の無料宅配サービス開始、翌年の店舗の年中無休開始と、新たなサービスを導入され、この時期が御社にとっての転換点であったように感じるのですが・・・
佐藤:その通りです。『価格戦略』から『付加価値戦略』へ明確に転換しました。きっかけは大きく二つあって「2003年の酒類免許規制緩和の決定」と「酒市場の減退」です。
それまでは免許で守られていた業界が守られない。規制緩和後はスーパーマーケット(以下SM)・コンビニエンスストア(以下CVS)、お届けで言えば宅配業者も競合になる。2003年をこのままのディスカウント酒屋でむかえたらつぶれてしまう。
今までは他店よりも100円安いから買ってもらえていたものを、100円高くても買ってもらえる事業を中心に据えようと決め、まず店名を「スーパーディスカウント大安」から、「なんでも酒やカクヤス」に変更しました。『お客様の要望・期待になんでも応えたい』という思いで商売をしていくという会社の姿勢を「なんでも酒や」という言葉に込めて名付けました。最初は社員から不評で、色々言われましたけどね(笑)。
抜田:具体的な戦略はどういうものだったのでしょうか?
佐藤:新たな大きな競合に勝つには「選択と集中」、捨て去るところを明確にすることが大事。値段も一緒だし、店作り・品揃えではSMに勝てない。利便性では、圧倒的な店舗数・24時間営業のCVSには勝てない。故に店頭は勝てる要素がない。そんな中、唯一勝てるかも知れないと思ったのは宅配サービスでした。
でも、「カクヤスがお届けで多少うまくいってるようだ」と聞いたら、後にSM・CVSが宅配業者と組んで宅配サービスを始めてきた時にそれに負けては悔しい。であれば、彼らができないモデルをしようと。つまり、彼らよりもお客様にとって利便性の高い宅配をしようと。それまでの宅配ビジネスに共通していたのは、売り手側の論理が色濃かったということでした。
抜田:売り手側の論理が色濃いというのはどのような部分だったのですか?
佐藤:一つ目は「エリア」。届けられるところと届けられないところがある。そもそも自分の住んでいるところがエリア内かもわからない。二つ目は「ロット(量)」。どれ位の量から届けてくれるかがわからない。最後に「届く時間」。いつ届くか、そして欲しい時間に届けてもらうにはどうしたらいいかがわからない。だから、カクヤスが勝ち残っていくために絶対的に必要なキーワードは、エリアの縛りをなくす「どこでも」、ロットの縛りをなくす「一本から」、「2時間以内に」で、これを実現しようということに決めました。
たまたま以前に実施していた半径1.2kmの小さな商圏の中で、2時間以内に一本からというのはなんとなくできていたから、1.2km×1.2km×3.14が一つの商圏となる。精一杯頑張ってもできるのは東京23区だったから、「東京23区内はどこでも」。23区の面積をカクヤス1店舗の商圏で割ると、出店すべき店舗数が出る。137店出せば、机上では「東京23区はどこでも」「一本から」「2時間以内に」が完成する。
空港・皇居等、出店できない場所を除いて、110店強で埋まるということがわかり、『こんなことは、宅配業者もやらないだろうから、2003年までにこの事業モデルを作り上げ、これでSM・CVSと戦う。ここにカクヤスの「人」も「モノ」も「カネ」も全て投入しよう』と決めました。
抜田:なるほど・・・とはいえ3年で80強の店舗増は色々な意味で相当難易度が高いですよね?
佐藤:そうですね。当時28店しかない酒販店がそんなことをやるのは常軌を逸してるとしか思えなかったですね(笑)。免許の縛りがありながら、3年で80店を出店なんて、普通はやらないですよね。「価格戦略」はわかりやすさから浸透しやすいですが、「付加価値戦略」はそうはいかない。そうすると、今まで短期間で黒字化できていたものがそうはいかなくなる。実際、100店になった時点で6割くらい赤字でした。銀行からは「真面目に考えてもらわないと困る」って言われ、役員会でも全員反対で「出店やめましょう」と言われました(笑)。
でも、私は『何がなんでも「どこでも」のキーワードを手に入れ、顧客接点を極めて明確にわかりやすくしなければ勝ち目はない。「どこでも行きます」だから、買ってくれる』という信念のもとに「このまま行く」と決め、2003年に「23区どこでも」が実現しました。しかしながら、それが実現したからといって、突然黒字化するわけもなく、相変わらず赤字の額が増えました。それも厄介でしたけどね(笑)。
抜田:大きな決断でしたね。
佐藤:ラッキーでした。一つは東京23区であったということ。なぜかというと、23区は全国でもズバ抜けて外食での飲酒比率が高い。全国平均は約25%と言われますが、東京23区では51%。ということは49%だけを狙って宅配モデルをやっていたことになりますよね。でも、51%の業務用市場を取り込もうとしたときに、カクヤスは元々業務用の酒屋で、やり方も知っていたし、物流モデルもできていたからチャレンジすることができたんです。
もう一つは、「当日発注・当日配送」が飲食店の業務用酒屋に対する最も高いニーズだったのですが、通常の業務用酒屋の物流形態では実現が難しく、この最も高いニーズに応えきれていませんでした。だから、当時は「困ったときだけご注文ください」という切り口で入っていきました。そうしたら、多くの飲食店が切り替えてくれて・・・それで何とか今のようなビジネスモデルを作り上げてきました。だから、今でも業務用がなければ赤字ですよ。要は酒屋として生き残るためには「お届け」しかなくて、自分で考えたお届けモデルを展開したんだけどソロバンが合わなくて、苦肉の策でやった業務用がヒットして、ソロバンが合って、今の状態になったんです。
抜田:失礼ながら、一般家庭向け宅配で成り立っていると思っていました・・・
佐藤:皆さんそうおっしゃいますが、実は違うのです。「百貨店」から「SM」、「SM」から「CVS」、次はより顧客に近い玄関が売り場になるだろうということで、次世代型流通モデルで「アマゾン」さんや「アスクル」さんが取り立たされますが、どちらもやっていないのは「自社物流」と「BtoBモデルを成長ドライブにしたBtoCモデル」で、これはカクヤスの独自モデルなんです。売るところが無かったから、業務用に行っただけなんですけど(笑)。
でも、どの地域でもできたわけではない。東京23区の51対49のマーケットが結果的に今のモデルになったんです。運がよかったんです。
抜田:現在の御社の課題は何だとお考えですか?
佐藤:採用ですね。特にアルバイトの採用。とはいっても酒屋でしょ?結構きつい仕事なんだよね。あとは企業の課題ではないけど、大手ビールメーカーと弱小流通という構図の打破かな。
抜田:今後の展望をお教えいただけますか?
佐藤:まず考えられるのは現取扱商品の周辺商材を充実させていくことですね。
例えば、去年「ミクリード」というカタログ通販の業務用食材卸の会社を買収しましたが、ここの肝は商品開発力なんです。商品開発力があれば、C(一般顧客)向けの商売にも転用できる。あわせて「ホームパーティー需要」や会社イベント等の「法人需要」も相当大きなマーケットなので、今までの「業務用でも家庭用でもない法人需要」を取り込む。つまり、今の物流プラットフォームに若干の周辺商材を乗せながら、今までとれていなかった領域に入っていくということです。
ここまでは今の我々でイメージできていることですが、カクヤスには結果的に、都内の約10万軒の飲食店のうちの「3万軒分の購入データ履歴」、約400万世帯の一般世帯のうちの「40万世帯の購入履歴」がある。だから、それを活かして商品開発やマーケティングをすることも可能かもしれない。ただ、今までドップリ酒業界に浸かっていた人には、なかなか思いつかない部分なので、もっと視野の広い人達に参加してもらって、「もっとこんなことができる」とか、「お届けのついでにこんなことしたら」とかいろいろなことを考えていったら、玄関先の「R-25」みたいにならないか、とかね(笑)。
当然、今のままの事業の数字も大事だけど、その延長線上で一喜一憂して、+α程度で商品開発をしていてもつまらない。酒屋の域を脱しない。今とは違った複合体・ハイブリッド型の会社に成っていこうとすると、もっともっと違ったカルチャーを持った人に参加していただくことが必要なタイミングになったのかも知れないですね。
抜田:楽しみですね!お話をお聞きしていると佐藤社長が経営を継承していくタイミングは「この形」というのが明確にあるように感じましたがいかがでしょうか?
佐藤:今後の自分に残されている役回りは、「戦略決断」と「組織風土マネージメント」だと思っています。そして、「所有」と「経営」はきっちり分業していかなければならない。今、私は「所有者であり、経営者」ですが、いつまでもカクヤスの経営に捉われていたくない。今は正直、まだ私に依存があるように感じていますが、そうではなく、皆にもっと「自主・自律」でやって欲しいと思っています。
「株式会社カクヤスと言えば佐藤順一(佐藤社長)」ではなくて、『カクヤスって誰が社長だかわからないけど、なんかすごい会社だよね』って言われるような、強いボードメンバーの構成の会社だったらかっこいいよね(笑)。だから、できることならば、5年・10年で社長をリタイヤして、会長にも顧問にもならずに、完璧に身を引いて、「カクヤスっていい会社になったなぁ」って第三者的に言いたいなって思っています。「所有者」としては、「経営者としてこの人にはかなわない」って思える人が出てきたら、その人に委ねた方が良いもんね(笑)。
抜田:最後に、「株式会社カクヤス」に興味を持っている方へアドバイスをお願いします。
佐藤:仕事も楽しくなかったら、やる意味がないと思っています。キーワードは「Enjoy!カクヤス」。だから、楽しめそうだったら、来てください。仕事は楽しいと思います。ただ、ぶら下がっている人にとってはすごく辛い環境だと思います。だから、「Enjoy!カクヤス」行けそうだなと思ったら、一緒にやりましょう。人間って遊んでいる時が一番いい顔してるんだよね。あの顔が仕事で出るようになるといいと思います。
抜田:本日はありがとうございました。
仕事も楽しくなかったら、やる意味がないと思っています。キーワードは「Enjoy!カクヤス」。だから、楽しめそうだったら、来てください。仕事は楽しいと思います。ただ、ぶら下がっている人にとってはすごく辛い環境だと思います。だから、「Enjoy!カクヤス」行けそうだなと思ったら、一緒にやりましょう。人間って遊んでいる時が一番いい顔してるんだよね。あの顔が仕事で出るようになるといいと思います。