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株式会社マルハン 代表取締役社長 韓 裕 氏
「売上2兆円」を今期には達成するというパチンコ産業では群を抜くNo.1企業「株式会社マルハン」の韓裕社長に、「業界を変えていく!」という情熱に溢れるお話を伺いました。
株式会社マルハン
代表取締役社長 韓 裕 氏
1988年4月 株式会社地産
1990年2月 マルハン
1992年2月 取締役静岡営業本部長
2001年10月 取締役営業統括本部長
2005年4月 常務取締役営業本部長
2006年4月 代表取締役副社長
2008年6月 代表取締役社長
インターウォーズ株式会社
一人ひとりが人生のCEOとして生きる社会を実現する
人と企業のインキュベーター
インターウォーズ(以下、IW):創業家の後継者として家業に入っていかれるときの思いはどんなものでしたか?
韓 裕 氏(以下、韓):7人兄弟の長男が米国で事故で亡くなったこともあり、家族みんなでこの事業を支えていくのだという事はごく自然な事でもありました。従って新卒で他の会社に就職したのも、将来家業に入るための修行と思っていましたので、ごく自然な形で入社していきました。
おそらく私の幼い頃は、父がボウリング事業での失敗を業態転換で必死に取り返していた頃で、帰宅して一人で苦悩している父の後姿を見ていた記憶からも、自然とこんな感覚が培われたのかも知れません。
IW:入社当時を振り返って一番ご苦労されたことはどんな事でしたか?
韓:当時はすでに35店舗になっており、「売上業界No.1」とか言われていました。
ところが店長がどこの会社の出身者かによって全く違う方法、異なる文化で運営がされていました。従って、私が営業本部長として「マルハンとしてこうすべき!」と何を発信しても完全に空振り状態でした。当時の業界の常識は「お客は騙して何ぼ」「なめられたら終わり」「現場も分からない本部長が何を言っているんだ」といった具合で、正に面従腹背の状況でした。
そこで、まずは理想的なモデル店舗を作り、その上で「百匹目の猿現象を狙うしかない」と思い、自分と志を共にしてくれる学生時代の後輩や野球部OBを捜し口説き回りました。そして、夢とビジョンを語ったが、まずやることは、店舗に立ちパチンコホールで働くという現実でした。今にして思うと無茶な説得だったと思いますが、私の気持ちが通じた5人の精鋭とその他が全て女性アルバイトスタッフという陣容でモデル店舗の立ち上げに臨みました。
スタートアップに際して、今までの業界常識を覆し私が徹底した事は、
1)朝の挨拶
2)お客様の名前を覚える…スタッフに笑顔で挨拶されればお客様も気持がいい
3)マイクの呼び込み禁止
4)軍艦マーチの禁止…単純にうるさい
5)新人にも初日から遊技台の調整をさせる…調整技術は10年で一人前って本当か?
という事でした。
結果的にこの取り組みが好結果をもたらし、徐々に他の店舗にも浸透していった事がこの後の改革を全社的に進める原動力となりました。結果的にここで育った精鋭達が入れ替わっていく事により、改革もスピードアップできました。また、ここからマルハンパチンコタワー渋谷立上げまでの3年間、出店を急がず体質転換に集中させていただけたことはとても大きかったです。
IW:なぜ「改革しなければならない!」とそれほど強く思われたのですか?
韓:そもそも「お客を騙して何ぼ」という仕事にやる気など沸かないし、「自分が満足でない事に、社員が満足するはずはない」と思いました。もう一つは学生時代の体験も大きかったです。私は甲子園を経験させていただき、法政大学の野球部に入ることが出来ました。当時の法政は毎年25人の新入部員が入部するのですが、そのうち20人は甲子園組で、しかも毎年ドラフトを経て4人はプロを輩出するようなプロ野球選手養成所でした。私は入部と同時に「これはエンジョイ野球に徹しよう」と思ったのです。(笑)
だからというわけではないのですが、毎日練習終了後によく武蔵小杉のパチンコホールに通っていました。そこに、とにかく態度の悪い店員さんがいましてね。ある日玉が詰まったので呼ぶと、明らかに「またお前か…」というふてくされた態度。おまけにわざと私の頭にぶつけるようにガラス戸を開けたのです。「何や!」ということになり事務所の奥に行くと、ドスの効いた声の店長から「出入り禁止や!」と言われたのです。「こんなことはおかしい!!」と心から思いました。
でも当時のマルハンも同じようなところがあったかもしれません。
もう一つ、これは少し後からの事ですが、ある日店舗のメンバーと居酒屋で飲んでいた時のことです。隣で飲んでいたお客さんと意気投合し「お仕事は何をやっているんですか?」という何気ない会話がはじまり「マルハンです」と言ったら「パチンコ屋の店員ですか?」と言われ、その後の会話は何もありませんでした。その時隣に居たメンバーたちの悔しい思いを察するに「彼ら仲間達のために何としても自分は業界を変えなければならない!」と決意しました。
最近は新卒採用に際して「価値あるサービスを提供し顧客に認められ業界を変えていきたい!そのためには若い力が必要だ!」と言い続けています。そういう約束をすればするほど責任の重さが増して来るのを感じています。
IW:株式会社マルハンの強みはどんなところですか?
韓:店長面談を定期的に行っているのですが、必ずしも今の店長クラスでも最初から理念に共感し同じ熱を持って入社してきたのではないという話を聞きます。
入社後最も影響を受けた人は誰ですか?」と訊ねると先輩という声をよく聞きますが、なかでも、松田取締役(東北営業部部長)と答える人が多いですね。ある店長が「朝の遅刻癖が直らない自分に対して「明日の朝から7時半に来い!」と一言だけ言って、それから2ヶ月ガラス拭きを一緒に付き合ってくださいました。毎日、ガラスを拭いているときには一言も仰らないのですが、松田部長が何を伝えたかったのかはよく分かりました。あの時の体験がなければ当然今の自分はありません。」というエピソードを語ってくれました。
今いるリーダーたちも決して最初から理念が真ん中にあったわけではありません。いろんな先輩達から教えられ育てられ今の自分があると思っているはずです。正に「玉際の一歩であきらめない人たち」「決してエリートでない人たち」がこの会社を支えているのです。これがマルハンの強みです。
IW:敢えて挙げると課題はどんなところですか?
韓:たとえば人事制度一つとっても、どのように変えていくべきかというときに「上場企業は一般的にどうなのか?」ということに気を取られがちです。もちろん参考にはするのですが、「おいおいマルハンは標準的な会社を目指しているのではない!」というような議論が起りやすくなっているということでしょうか。
組織の規模が拡大していくと、特に本社は肥大化しやすく大きな作業場となっていくものです。また、創業時、10年前、今、と比べると、休日や労働時間や給与条件など、いずれも年を追うごとに条件は良くなっているはずなのに、昔の方が従業員は活き活きとしていたのではないか?といった声も良く耳にするようになりました。
本当の意味での従業員満足度(ES)とはやはり「共感参画型組織」なのではないかという視点から、「人材活性化プロジェクト」をはじめ3つの活動を推進しています。
振り返って考えればマルハンの歴史は失敗も多かったのですが、「失敗を恐れず挑戦する事の連続」でした。店長が「自ら判断し自ら挑戦し続ける文化、社風」を取り戻す事が大切で、このことこそが「チームマルハンの全体価値を向上させる」と確信しています。またクリーン運動にも取組んでいます。店長自ら率先して便器を掃除し、メンバーもゴミを拾う、近所を掃除する、店内のガラスを磨くなど、周りを磨き、同時に自らの心も磨くという精神で真剣に取組んでいます。マルハンがマルハンらしくあるために、独自の企業文化と組織風土を醸成しなくてはいけないのです。
また、今後500店舗まで国内の店舗数を拡大して行こうと考えていますが、特にこの2~3年での100店舗をどんな風に作っていけるかは重要なテーマです。
IW:今後どのような会社にしていきたいですか?
韓:売上1兆円が達成できたときに次は5兆円という言葉も出ていましたが、数字的な規模の拡大を単純に求めていくのではなく、世界水準のサービスを提供し、その結果としてお客様から支持される会社ですね。そして当社の従業員が、課題を抱える他の飲食業やサービス業などの企業から「マルハンの人材を採用するしかないだろう!」と期待され、評価していただけるようなレベルに成長する。その延長上に結果として世界レベルのエンターテインメント企業を目指したいですね。5兆円という数字も中身が充実すれば必ずついてきます。
IW:人材について今お考えの事はどんなことですか?
韓:一つは「人類がはじめて空を飛んだのが約100年前。それから60年足らずで月に到達している。マルハンという会社は50年前に無一文の現会長が単身海を渡り、今2兆円の会社を作り上げている。誰にも平等に与えられているのが時間であり、与えられた数十年という時間は、無から有を作り出し、世界に挑戦できる可能性が十分にある。今のマルハンを維持することがゴールではない!夢を自ら描き自らそこに参加せよ!」ということです。
もう一つは「こうなりたいというイマジネーションがとても大事」という事を言っています。これは私の体験談です。「甲子園に出たい!」と思ったら別に誰かから尻をたたかれなくとも必死に練習しました。でも社会人になって「毎日日経新聞を読め!」とか「本を読みなさい!」といくら言われても全くその気になりませんでした。
でもある日社内の先輩の講演を聴く機会があり、そのあまりの話の旨さとかっこよさに憧れ「どうしたら先輩のように話せるようになりますか?」と尋ねたら「とにかく一日一つネタを見つけメモする事を自分にノルマとして課しているだけで、特別な事は何もしていない」との話を聞いて、これならできる!と思い「人前に立ってかっこよく話している自分の姿をイメージできた」日から、今まで全く興味のなかった本もどんどん頭に入っていきました。
最後に「イメージを共感してくれたら、人はやる気を持って働いてくれるものだ」ということです。よく店長に「経験も大事だが、イメージさせ、その上で取組ませることが大切だ。」と言っています。
その上で「挑戦し続けるマルハン」を目指します!
IW:本日はありがとうございました。
業界を牽引する企業のトップとしての「大切なこと」を、エピソードを交え伺うことができました。常に『人』と向き合うマルハンISMを感じるインタビューでした。
今に留まらず「進化」するマルハン社のさらなる展開が楽しみです。当社も応援させていただきたいと考えております。ありがとうございました。