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ブックオフコーポレーション株式会社 代表取締役社長 佐藤 弘志 氏
『本を売るならブックオフ』でお馴染みのブックオフコーポレーション株式会社の佐藤弘志社長にお話をお伺いしました。
『捨てない人のブックオフ』への変貌をはかる同社の「今まで」「今」「これから」をお聞きしました。 充実した内容になっておりますので、導入はこの辺で。早速ですが、本編をご覧ください。
ブックオフコーポレーション株式会社
代表取締役社長 佐藤 弘志 氏
1995年3月 東京工業大学大学院修士課程修了
1995年4月 マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン
1997年8月 ブックオフコーポレーション株式会社
1997年9月 同社取締役企業戦略室担当
2003年4月 ブックオフメディア株式会社 代表取締役社長
2007年4月 ブックオフコーポレーション株式会社 執行役員企業戦略担当
2007年6月 ブックオフコーポレーション株式会社 代表取締役社長
インターウォーズ株式会社
インタビュアー 抜田 誠司
食品メーカーを経て、黎明期の外食FC本部に参画。研修・業態開発・営業企画等の責任者を歴任。その後、小売業等の新業態開発・外食業態のリブランディング・物流/購買改善等のプロジェクトに携わり、2007年から現職。
抜田 誠司(以下、抜田):コンサルティングファームに新卒入社された経緯と、ブックオフ社に中途入社された契機・動機についてお聞かせ下さい。
佐藤 弘志 氏(以下、佐藤):当時、世の中をいろいろ見てみたいという思いがあったものですからコンサル会社入社に至りました。大変勉強にはなりましたが、経験のない中で人様にアドバイスする立場ではなく、地に足のついた経験がしたいと思い転職を決意致しました。
転職サイトにも登録しました(笑)。情報収集していく中でブックオフが目にとまり、また、私自身が相模原市出身であり、親しみがあったものですから応募致しました。そこで創業者の坂本氏に出逢ったわけです。オーラがありますよね。彼が語る夢に共感し、「これはすごい」ということで入社の運びとなりました。
抜田:創業者である坂本氏に対し、最も共感した点はどこですか。
佐藤:上場して、NYにお店を出して、と将来のビジョンについて大風呂敷を広げる社長さんは大勢いらっしゃいますが、坂本氏はあくまで社員のためを想ってのことでした。
上場も、NYへの出店も、当時のブックオフの状況(銀行さんにはお金を貸してもらえず、新入社員の親御さんには古本屋に勤めさせるために勉強させたのではない、と反対されるなど)「古本屋なんて」という世間の風潮から、切ない思いをしていた社員に報いるためのものでした。その坂本氏の言葉と熱意に心を打たれました。
ビジネスとしてもすごく面白いと感じましたし、当時は完全にコンサルタント目線で(笑)、これは自分が入って仕組みを変えたら大化けするぞ!と思ったところが入社の決意でしたね。
抜田:なるほど。入社してからの最初のミッションは、どういったお役回りでしたか。
佐藤:「もう好きにやっていいよ」と言われました。
抜田:それは一番良いようで、なかなか難しいですね(笑)
佐藤:そうなんです(笑)『企業戦略室』という一人部署を創ってもらって、意気に感じて頑張ったのですが・・・まあ空回りしますよね(苦笑)。うまくいきませんでした。
ブックオフはトップと現場の距離が非常に近くて、且つ、現場に権限がものすごくある。中古屋ですから、店舗毎で「買い取って、売る」ということが独立してできてしまうわけです。つまり、川上・川下が自店舗にある商売です。そうすると現場力がものすごくあって、どんどん物事が現場でFIXされていく。そこに頭でっかちな人間が入ってきて、仕組みをどうこうだけで付加価値を出す余地はなかったし、望まれていなかったのです。
「どうも自分は役に立っていない気がする」と自信を失い、一年経たないうちに、悶々と悩むようになりました。そうした中で、現場での経験の必要性を感じ、坂本氏に頼んで店長をやらせてもらいました。前向きにというよりは、「自分の居場所を得るために」、「自分が尊敬されるために」、店長で成功することが必要なのだ、というのが店長に手を挙げた動機でした。
抜田:カリスマ創業社長のあとを引き継ぐのは、本当に大変なことであったと思います。
佐藤:はい。会社としては本当に初めての挫折でした。更に、いつも頼ってきた創業者の坂本氏が責任を取って辞めると。二重苦だったわけです。何とかこのブックオフをもう一度成長軌道に乗せなければいけないと思いました。
当時の私は1997年に入社してちょうど10年。序盤の店長から始まって、「ブックオフで人生を教わってきた」、そんな想いでおりました。一緒にやってきた仲間も大好きですし、皆すごく鼻息荒くて(笑)。こんな良い会社めったにないから、この会社が一回目の挫折で折れてしまうようなことがあっては、本当に勿体ないと思ったのです。
自分の事だけを考えれば、他にも選択肢はあったのかもしれませんが、ブックオフという会社に恩返しをするには「やるしかない」と思いました。
みんな結束しました。良い意味での共通の危機感でした。幹部たちの多くが店長出身で、店長として危機を経験したことのある人間がブックオフの幹部なので、逞しいのだと思います。
会長の橋本と、私と、専務の松下の得意分野が異なっていて「三人で一人前だね」と、いつも三人で言っているのですが。スーパーカリスマ経営者として坂本氏が持っていた資質を、三人で分担してなんとかなっているというのが現状ですね。
抜田:最も大事にされている経営の判断基準は何ですか。
佐藤:『持続可能性』です。当社は、30歳が定年で「あとは起業してどんどん好きなことをしなさい」という社風ではありません。ブックオフは、人より遅くても、真面目にこつこつと、お客さんのことを考えて頑張る人を評価していくという文化なのです。それを実践していかないと、『物心両面の幸福の追求』という理念がウソになってしまいます。
「持続可能」かつ「成長」を続けられる存在になっていくためには、野性味あふれるだけのベンチャー企業は、どこかで足元をすくわれると思います。
2010年はちょうど創業二十期目、企業の在り方が問われる時期に入りました。大事な文化を変えずに、企業の旗印を変えていかないとこれ以上伸びないですし、大事な社員たちに、次の武器を提供していくことが難しくなってしまいます。
最近言っているのが、『捨てない人のブックオフ』です。「捨てない人、捨てたくない人のインフラを創っていく」いう想いが込められています。インフラとなっていけば、お客様にとって必要不可欠になっていきますし、この先二十年、三十年と伸びていけるはずです。ですから、「これは持続可能なのか」という目で全ての仕組みを見るようにしていますね。
抜田:佐藤社長が考える『競合他社』は、どのような企業になるのでしょうか。
佐藤:たくさんありますね。本の中古に関しては、当社はNo.1だと思います。ただ、最近拡げようとしている「洋服」「ブランド品」「スポーツ用品」となると、それぞれ分野ごとにトップ企業さんがあります。 ただ、『トータル』という点で見ますと、我々1500坪の『BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)』であり、このパッケージができるのは、今のところ当社だけだと考えております。
抜田:なぜ、御社は1500坪のお店ができるのでしょうか。
佐藤:正直に申し上げますと、「ブックオフがあるから」なんです。
抜田:自社に核となり得るテナントがあるから、ということでしょうか。
佐藤:そうなんです。1500坪にただ中古品をやみくもに置いていても、恐らくお客様は来ないでしょう。でも、真ん中にブックオフがあって、「大きなブックオフができたらしいよ」というと、とりあえず周囲の方は来て下さる。そうすると、手前で中古の品々を見たお客様が「こういうものも中古品であるの?」と。「こんなきれいなものが売っているの?」という驚きを持ってもらうことができます。
『核テナントとしてのブックオフがあること』と、『規模感』が我々の強みではありますが、一方で、『一つ一つのジャンルのレベルを上げていく』という課題も残っています。その課題を克服するには、レベルを引っ張り上げてくれるジャンルのプロがいないと中々出来なくて・・・。
抜田:失礼な質問になってしまうかもしれませんが、まだまだリユース業界に対するイメージは、いいものとは言い切れない部分もあると思います。ではなぜ、ブックオフは『人が集う古本屋さん』に変貌できたのでしょうか。
佐藤:細部は変わっているものの、ブックオフの業態そのものは、ほぼ創業数年の間で確立しておりました。おそらく、創業者の坂本氏の中に、「コンビニのような」というキーワードがあったのだと思います。具体的に言うと、「午後11時に女性が一人で入ってきて、フラッと立ち読みして帰っていける、そんな店にしたい」と、当時よく言っていました。イメージがちゃんとあったのでしょうね。
「従来のイメージとは対極のものを創りたい」というビジョンが明確で、それを一つ一つ実行した結果浸透してきたのだと思います。
抜田:一方、実際にお客様にご来店頂くには、また違った動機付けも必要だと思います。
佐藤:そうですね。初めのころはとにかく目立つところに出店しておりました。また、『本』という看板ですので、新刊屋さんと勘違いしてお客様が入ってこられます。そこで、100円コーナーや定価の半額コーナーの棚に、とにかくきれいな商品を、痩せ我慢してでも置いていました。
すると、『中古』という言葉から、古いイメージがあるところに、新品と見紛うほどの商品が並んでいて、お客様に「これは新刊ですか」と質問を受けるほど、一人一人に驚いて頂く、その繰り返しだと思います。実際、私も新店オープン時に「中古のコーナーはどちらですか」とよく聞かれました(笑)。
抜田:それはすごいですね。
佐藤:ええ。「すべて中古品ですよ」と答えたときのお客様の驚きは嬉しいものがありました。同じことを他の分野でもやりたいのです。「古着なんて」という方に実際に見て頂くと、「これでいいじゃない!」と認識を変えて頂きたいのです。とにかく、お客様にリーチする手段・手法というのは、大きなお店を目立つ場所に作るより他ないと思うのです。どんなに広告でアピールしても、見ない限りはそこで終わってしまいますし、小さなお店ですとわざわざ行く気になるかという問題もあります。
とにかく、「大きいですよ」と。「何でもありますよ」と。しかも「ブックオフの大きなお店が真ん中にありますよ」と。そうなると、リユースに興味のない方も、「大きなブックオフなら、前から探していたものがあるかもしれない」と来て頂ける。一度お越しいただくと、リユースそのものに対するイメージが変わり、リーチが伸びるということです。それが当社の強みでもありますし、使命だと思っています。
抜田:ブックオフさんが一番注力されている点はどこですか。
佐藤:一番は『店づくり』です。つまり、(適正な)値段で買い取って、ちゃんとした売り場をつくることです。仕入れ(買取)⇒加工(きれいにする)⇒陳列(補充)⇒販売と、そこのサイクルが本の場合はすごくシンプルです。また、本には定価が書いてありますし、且つ、仕入れの評価も四段階で、すごくシンプルだったので、そこであまり頭を使ったり、商品特性に応じたノウハウを入れたりする必要はなかったのです。その形でずっと来ていますし、今日までやって来られたのですが、やはり限界があります。
これからは意識付けをしていかないと、未だ本業が強いので、20年続けてきた意識が、なかなか変わらないのです。『ナンバーワン意識』から、『後発組意識』に変えていかないといけないと思うのです。
抜田:今後の戦略について、再度教えていただけますか。
佐藤:自社業態のフルラインで1000坪以上のお店を出していきます。中古屋は、もう大きくないと品揃えというか、選択肢が足りないと思うのです。「どれがいいかな?」という状況にあって、初めて購入に至ると思うのです。やっぱり規模なのだと思うのです。
それをやりつつ、同時進行で各ジャンルのプロの方に来て頂いて、チームを作って、そうした売り場を幾つも創ることで、『BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)』という業態が出来上がる。これが次のエンジンになれば、ロードサイドにブックオフを年間何十個も出してきたのと同じ勢いの次の成長が見込めるはずなんです。
抜田:海外戦略について、どのようにお考えでしょうか。
佐藤:BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)の次の展開だと考えております。『日本人相手ではない店舗』が完成すると海外のブレイクスルーはできるのだと思っています。現地で買い取って、現地で販売する。スタッフも全員現地の方を採用する。ようは、日本からビジネスモデルだけを輸出する形にならなければ、おそらく伸びないと思います。そうした『完全現地化』されたお店が、パリに2店舗と北米、ハワイ、韓国にそれぞれ1店舗、合計5店舗あります。海外のメンバーにはとにかく、「利益率20%、現地化モデルでまず出してほしい。そうなったら一気に投資するから、そこまでは必死に持っていってほしい」という言い方をしています。
抜田:M&Aに関してはどうでしょうか。
佐藤:これは今時点積極的には考えておりません。なぜかと言えば、BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)という、自社ブランドの全ジャンルを網羅したパッケージに、経営資源を集中しようと思っているからです。
抜田:先駆者のノウハウを買うという考え方もあると思うのですが、いかがでしょうか。
佐藤:うまくフィットする会社さんがあれば、あり得ることだと思いますが、その店舗が欲しいと思う会社さんは、実はそう多くありません。当社の今の戦略から考えると、規模が小さいわけです。魅力的と感じるものは、実は、人だけなのです。
抜田:また、いくつか他のFCに加盟していらっしゃいますが、他のFCに加盟されるメリットや想い、狙いについてお聞かせいただけますか。
佐藤:一番は、自分たちの物差しだけでずっと動いていると、物事を見誤るというか。別のFC本部の社長さんのお話を聞いていると、「もっと修業しないといけないな」と思いますし、他のFC本部さんを見ても、高度にシステム化されたFC展開で、「FC本部ってこうでなくちゃいけないな」と思わせて頂ける。やっぱり勉強になるんですよね。
抜田:改めて、佐藤社長が考える、いま一番の大きな課題は何ですか。
佐藤:克服すべき課題として考えますと『専門性』です。一方、「一番会社として持っていなくてはならないところ」という目線で考えますと、『持続可能性』だと思います。
具体的に言いますと、『人の成長』と『文化が変らない』ということであると思います。社員には、自立して、自由を勝ち取ってほしいと思います。それは『持続可能性』のためです。
しかし、一方で、そこに重点を置いた時に、これまでのワイワイやってこられた文化が損なわれてしまっては、これは致命傷です。だから、その二つを両立させるためにはどうしたら良いのか、これが一番の最重要課題と考えております。
抜田:社長の夢を教えていただけますか。
佐藤:急成長を遂げた面白いビジネスモデルのブックオフが、コアを変えずに世の中に浸透し、且つ経常利益、数100億という、小売の中では有数の企業になるのを見たいと思っています(笑)
抜田:「ブックオフの門を叩きたい」という方に向けて、メッセージをお願いできますか。
佐藤:うちの会社は、とにかく「失敗しないと、真のリーダーになれない」(笑)と、みんなそういう意識でいる会社です。失敗はして頂けると思います。『ウリ』としては、もうそれしかないくらいです(笑) 私自身も、あたまでっかちで鼻高々入社してきて、坂本氏にあれだけ失敗させてもらって、周りに色々教えてもらって育ってきているのです。一生懸命やっていて、「失敗した!」って言っても、すごく周囲が温かいですし。「失敗しながらでも、プロのリーダーになりたい!」という方はすごくフィットすると思います。
抜田:佐藤社長はどんな方と一緒に仕事がしたいですか。
佐藤:Mっ気のある人(笑)
抜田:(一同笑)それはどういう意味ですか。
佐藤:うちの会社って、皆そうなのですが、何かが駄目だと「それはおれのせいだ」と。そう思わざるを得ない雰囲気があるのです。中古屋は川上(仕入れ)~川下(販売)がお店で一貫しており、川上イコール自分なので、文句が言えないのです。ようは、「自分が変わらないと」「自分が何とかしないと」という想いの強い人ばかりで会社ができているので、普段仕事をしていてもすごく心地が良いのです。当社は、「悪口を言っている人間」や「責任転嫁している人間」が、自動的に排除されてきていますので、そういう意味のMっ気がある人に来てもらいたいですね。
抜田:これからが楽しみですね!本日はありがとうございました。
明解な企業戦略と大変謙虚で誠実なお人柄の佐藤社長の魅力にすぐに惹き込まれ、あっという間の時間でした。戦略コンサルタントから現場に立候補し、周囲の信頼を勝ち得、今も現場を大変重視する姿勢に感銘を受けると共に、勇気をいただきました。 『BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)』が大成功し、日本のみならず、世界でこのビジネスモデルと出逢えることを楽しみにしています。