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ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役CEO 中西 勉 氏
ミニット・アジア・パシフィック株式会社の中西勉社長にお話をお伺いしました。
“靴のリペア、合鍵作製と言えば『MISTER MINIT(ミスターミニット)』”というほど認知されているブランドである同社の、日本及び海外での今後の展開について、2010年代表に就任された中西社長にお聞きしました。
ミニット・アジア・パシフィック株式会社
代表取締役CEO 中西 勉 氏
1979年8月 フレックス株式会社
1984年9月 同社取締役
1988年6月 同社常務取締役
1994年6月 同社専務取締役
1998年9月 オフィスマックスジャパン株式会社 代表取締役社長
2001年4月 イオン株式会社 デジタル事業本部長
2004年3月 同社MDプロセス改革本部長
2005年3月 同社商品戦略本部長2004年3月
2006年4月 株式会社メガスポーツ 代表取締役社長
2010年7月 ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長
インターウォーズ株式会社
インタビュアー 抜田 誠司
食品メーカーを経て、黎明期の外食FC本部に参画。研修・業態開発・営業企画等の責任者を歴任。その後、小売業等の新業態開発・外食業態のリブランディング・物流/購買改善等のプロジェクトに携わり、2007年から現職。
抜田 誠司(以下、抜田):「MISTER MINIT」ブランドの日本マーケットへの進出は1972年とお聞きしていますが、その後、2006年にMBO。その背景を教えていただけますか?
中西 勉 氏(以下、中西):私たちは1957年にベルギーのブリュッセルで誕生し、急速に全世界に拡大をしていきました。そして、今から約10年前に創業者が会社を売却し、本社はイギリスで、そこに各国が子会社としてぶら下がっているような構造で、その当時、ロンドン市場への上場を目指していました。しかしながら、本社がイギリス国内で本業以外に様々な事業に手を広げ、結果的に業績が厳しくなり、立て直しのためにキャッシュフローを生み出す必要があり、ヨーロッパ以外を切り離そうと。そして、今から6年前にアジア・パシフィックがファンドのサポートを受けてMBOしました。
現在当社は、日本はもちろんのこと、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、そして最近では中国に出店しています。
抜田:約1年前に代表をオファーされた際に株主から期待されていたことは何だったのでしょうか?
中西:売り上げを伸ばすことです。私たちのビジネスは財務的には非常に健全で、利益面・キャッシュフロー面においても、他に類を見ないほどの健全性を保持しています。しかしながら、マーケットも伸びておらず、日本の売り上げは年々落ちてきていました。
そのような状況下においても、コスト削減が成功し、非常に筋肉質にはなっていたのですが、売り上げが伸びなければ今後の成長が見込めない。近未来的に成長性が評価されるような会社でなければならないと思っています。
抜田:そのようなタイミングで社長に就任されて、最初に取り組まれたことは何ですか?
中西:実際に店舗に立つ従業員のモチベーションの向上です。私は、店舗従業員がやる気を持ってくれれば、売り上げはすぐに上がると確信していました。つまり、いかにES(従業員満足度)を上げられるかがポイントだと思い、私もできる限り、実際に店舗を回って、従業員とコミュニケーションを取り、私の考えを説明すると同時に現場の意見を持ち帰り、社内でシェアをして解決策を練ってきました。また、当社では「ナショナルトレーニングセンターという教育機関」や「店舗の規模に応じた試験」や「全国技術大会の開催」を予定する等、キャリアアップに必要なスキルの習得のための仕組みが出来上がっています。
とりわけ私たちのビジネスは店舗従業員に依存するところが大きいので、彼らがやる気を持って前向きに頑張ってくれると同時に業績も上向きます。
私たちのビジネスは派手なものでも、大きな店舗を構えたり話題性があるものでもない。だからこそ、現場で働く人がモチベーションを上げられたら、非常に大きな力を発揮できると思うのです。
抜田:店舗の方からするとこの社長のお言葉は嬉しいでしょうね。
中西:そうですね。当社は今までコストカットに注力してきましたから、そのような会社の雰囲気にみんな萎縮していました。ようやくここに来て、みんなが方向性を理解してくれて、どんどん積極的に動くようになってきました。今では非常にフランクに話をしてくれますね。
抜田:素晴らしいですね。合わせて、実施した具体的施策を教えてください。
中西:ありがとうございます。具体的施策は大きく2つです。1つ目は『既存ビジネスの計画的拡充』です。例えば、靴・バックのクリーニングサービス「リ・ボーテ」や、革靴に撥水と防水の加工を同時に施すことができる「撥水ダブル加工」や、鍵のヘッド部分にアタッチメントを装着する「カスタムキー」が挙げられます。2つ目は『新サービスの展開』です。例えば、時計の電池交換等、今まで私たちがやっていなかったサービスです。とにかく無作為ではダメ。常に会社がダイナミックに、しかも良い方向に動いているという気持ちを全員とシェアしないと会社は良くなっていかないと思っています。
抜田:御社は小規模少人数多店舗経営のビジネスモデルが中心で、従業員のモチベーションマネージメント、トレーニング、定着率等が大変難しいと思うのですが…
中西:実は定着率は高く、人の出入りは非常に少ないと思います。それは専門技術があるということ、比較的自分のペースで仕事ができるというのもあると思います。合わせて、私たちは働く人にとって収入ベースは非常に重要だと思っているのですが、これはどこに出しても恥ずかしくない数字だと自負しています。当社では作業量に合わせて手当が付きます。ですから忙しければ忙しいほど収入も多くなるのです。
抜田:なるほど。
中西:あとはコミュニケーションを大切にしています。エリア・マネージャーやディストリクト・マネージャーは頻繁に店舗に顔を出すようにしてますし、とりわけ業務委託店は遠隔地が多いこともあって、定期的に電話でコミュニケーションを取らせています。
抜田:ライセンス展開しているグローバル企業のブランチ(支社)では、あらゆる面において、本国からの縛りが厳しいという話をよく聞きますが、御社はいかがでしょうか?
中西:イニシアティブは独自で持っていますし、インターナショナルからの縛りは一切ありません。特にアジア・パシフィックにおいては、それぞれの国で考えて実行し、そこでのベストプラクティスを他の国でシェアできればと考えています。世間では「グローバルに考え、ローカルに行動せよ」と言われますが、私は「グローバルに考えてグローバルに行動して、ローカルに考えてローカルに行動すべき」だと思います。ですから、徹底的に議論はしますが、基本的には各国の施策は出来るだけ尊重するようにしています。当然、国情も違えば、労働者の供給状況も競争相手も違うわけですから、その国に一番合ったやり方をするのが良いと思っています。
抜田:今後の戦略についてお聞かせください。
中西:1つは海外展開です。その中でも、まずは中国。
マーケットも巨大ですし、成長も著しいですから、ここを外してアジア展開は語れないと思っています。目標は5年以内に300店舗。それを足がかりにして、アジア諸国への展開という流れを考えています。
もう1つは、日本国内の潜在的なマーケットの開拓です。
私たちはまだそこに十分にリーチできていない。そのために、ネットを使った「ピック&デリバリー」というオンラインのサービスを提供していますが、なかなか定着しきれておりません。そこで、外部の物流企業と協同して、新たな「ピック&デリバリー」のサービスを提供する等、当社からお客様に近づいていくというビジネスモデルで日本国内の潜在マーケットを開拓したいと考えています。
『既存ビジネスを活性化させ、「リ・ボーテ」や「ダブル撥水加工」等の新サービスで上乗せし、さらにその上に外部企業とのコラボビジネス等の新たなビジネススキームを上乗せするような3層構造を目指していく』と機会があれば社内で説いて回っています。
抜田:今後、国内マーケットの位置付けをどのようにお考えですか?
中西:現在、日本が当社の売り上げの約半分を占めているエリアですので、日本市場を軽視することは絶対にありません。このマーケットにおける優位性をいかに保持していくか、そして技術革新という面でも日本は中心的な役割を果たしていますし、今後も変わらないと思います。ただ、売り上げの構成比を考えると、今後海外の売り上げが上がってくるため、売上比率は下がっていくと考えています。
抜田:現在の課題は何でしょうか?
中西:これは強みでもあり弱みでもありますが、いかに社員のモチベーションを上げられるかということです。店舗従業員は自分の技術に自信があるほど、新しいことに対してはなかなか1歩が踏み出せない。慎重なのです。しかし、その分、腹が決まればものすごい力を発揮します。それをさせるのに約1年かかったわけです。
また、私たちのビジネスは1店舗当たりの投資額が少ないため、IT化や従業員のモチベーション等をどのように今の時代にアップデートさせていくかという点が今の悩みですね。
抜田:中西社長が経営において一番大切にされていることは何ですか?
中西:従業員満足度をどう向上させていくか、これが経営の中で最も重要だと考えています。私たちのビジネスは人間産業と言いますか、装置産業ではないので、従業員がいかにやる気を持ってくれるか、またはお客様に対して必要なサービスを提供してくれるかがポイントです。それによって売り上げの10%くらいはすぐに変わってくると思っています。
もう1つは『随所作主(隨處作主)』です。何時何処に居ても、どんな仕事をしていても、またどんな時にでも主体性を持って行動し、力の限りを尽くせば、仕事が楽しくなるということです。決して、我を通したり、自分が主役になると言うことではなく、良いことも悪いことも全てを有るがままに受け入れるのが主(あるじ)であり、他に拠り所を求めたり、責任を転嫁するのではなく、自分自身に真実を見出し、今置かれている状況で精一杯努力をしていくという意味です。私自身、例え上司がいても、自分がそこの主だという気持ちを持って、主体的に仕事をすることを心がけて来ましたし、社員にもそのようになって欲しいと思っています。
抜田:ミニット・アジア・パシフィック社の魅力は何でしょうか?
中西:1つはブランド力です。調査結果によると9割くらいの方が「MISTER MINIT」をご存知なのです。これはビジネスを展開していく上で大きな武器になるだろうと思っています。
もう1つは投資が少ないという点です。投資が少なくて済むというのは、最悪の場合でも、すぐに引くことができるというメリットもあります。これは反面、参入障壁が低いというデメリットにもなり得ますが、実際はそこに技術的なトレーニングの仕組み等等、差別化できる要素があります。そして、人件費と家賃が大半というコスト構造のため、、しばしば「ライトピープル、ライトロケーション」という言い回しをいたしますが、これができれば私たちのビジネスは絶対に成功すると思っています。
抜田:いい意味で、非常に人に付く(依存した)ビジネスモデルと言えるのかもしれませんね。だからこそ、従業員の皆さんの教育やモチベーションをどう上げるかということが大事になるんでしょうね。
最後に、転職を考えられている方にメッセージをお願いします。
中西:自分の得意、不得意の分野はあるかもしれませんが、どういう仕事をしていても、「自分が主になる」という意識を持っていただきたいですね。そうすれば、己ずと道は拓けると思います。そのために学ぶ姿勢は常に持っていなければいけないと思いますし、絶えず様々なビジネスや情報にアンテナを張り巡らせていて欲しい。そうすれば必ず自分にチャンスが巡ってきますし、後は自分でそれを掴むかどうかだと思います。
抜田:本日はお忙しい中、ありがとうございました。
大変誠実なお人柄と共に、多くの店舗で頑張っていらっしゃる従業員の皆さんのことを常に気にかけていらっしゃることを強く感じ、一気に中西社長のファンになってしまいました。中西社長の導きで、既存のビジネスはもちろんのこと、新商品・新サービス展開や、中国を中心とした海外展開等、今後益々変化・進化を続けていくであろう同社を勝手ながら応援しております。
お忙しい中、丁寧にご対応いただきありがとうございました。中西社長、今後とも末永く宜しくお願いいたします。