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アグリグループ 代表 伊藤 俊一郎氏

アグリグループ

代表 伊藤 俊一郎 氏

1979年 新潟県糸魚川市にて出生
2004年 筑波大学医学専門学群卒業
2004年 筑波大学附属病院等の病院に勤務
2014年 株式会社AGRI CARE創業(有料老人ホーム・看護・介護事業)
2015年 MED AGRI CLINIC(現医療法人AGRIE)創業(訪問診療・有床診療所・リハビリ)
2017年 株式会社リーバー創業(医療相談アプリ)

渡辺 浩

インターウォーズ株式会社

インタビュアー 渡辺 浩

大学卒業後、(株)リクルート入社。 不動産、旅行、金融関係の情報メディアにて営業部長、事業部長を歴任。 その後、ジグノ・システム・ジャパン(株)コマース事業部長、ジー・プラン(株)社長を経て現職。

医師として10年間のキャリアを持つ伊藤俊一郎氏は、医療を超えた新たな挑戦として事業経営に転身。老人ホーム事業を通じて、医師としての経験を活かしながら、持続可能な医療インフラの提供を目指す取り組みについてお伺いしました。

心臓外科医から事業経営者への大きなキャリアチェンジ

渡辺 浩(以下、渡辺最初に心臓外科医から事業経営者に大きくキャリアチェンジされたきっかけを教えていただけますか。

伊藤 俊一郎 氏(以下、伊藤):まず1つは、恥ずかしい話ながら10年近く心臓外科医として働いていたのに、口座の残高が200万か300万ぐらいしかなかったということ。もう1つは、ずっと病院で働いてきたわけですが、果たしてそれが自分の望みなのかということ。後者に関して言うと、2年に1回診療報酬の改定があるのですが、その度に高齢者が長く入院できなくなる改定になり、病院なのにホスピタリティなく追い出さなければいけなくなってしまう。そこに課題を感じ、勤務医として働く人生もあれば、老人ホーム、ナーシングホーム事業を手がけるのもありではないかと考えるようになりました。退院後に医師もしっかり責任を持って患者さんをバックアップし続けることができる伴走型の医療を提供するところを作りたいという思いが生まれたのです。

そこで今から11年ぐらい前に、病院を辞めて起業の準備に入りました。社会的な意義や貢献が第一ですが、個人的にも全然お金が貯まっておらず、将来に対する漠然とした不安があったのも起業のきっかけですね。

渡辺:心臓外科医をされていても、お金は貯まらないものなのですか。

伊藤:特に贅沢していたわけではないのですがね。まだ結婚する前でしたし。ただ皮膚科や眼科などの科は自分の時間が持てるのでアルバイトもできますが、心臓外科医は本業がかなり忙しいのでその余裕があまりない。大学や大病院中心に働くと、他の診療科に比べ全然稼げないんです。もちろん神の手を持つような人なら、もしかしたらプラスアルファのインセンティブが病院から支払われることがあるかもしれませんが、10年目のドクターにはそんなこともなく、忙しい科ほど、お金が稼ぎづらい、経済的に困りやすい状況にある気がします。僕もほとんど蓄えがなかった。それと後輩や友達と一緒に食事をしたりするのも大好きで、後輩には奢りますから、あまりお金が貯まる体質ではなかったかもしれません。

渡辺:心臓外科医になるには、受験も含め大変な努力をして時間も費やしたと思うのですが、目指された理由はなんでしょう。

伊藤:心臓外科医を目指したのは、もともと外科の中でも再建に興味があったからです。例えば血管が詰まったら自分の足の血管でバイパス手術をしたり、動脈が膨れてしまったら人工血管で置き換えたり、心臓の弁が壊れたら機械弁や生体弁などの人工弁で置き換えるなどですね。半分ロボットのようなもので人体の機能を拡張することにもとても興味を持っていましたし。あと医学部の部活動の顧問が心臓外科医の教授だったのも影響したかもしれません。

渡辺:辞めることに抵抗はありませんでしたか。また老人ホームの経営は、心臓外科医でなくてもできるのではと思われませんでしたか。

伊藤:最初は心臓外科医を続けながら、サイドビジネスとして老人ホーム事業を行おうと準備を進めていたんですね。ただ、医学部のバスケットボール部の先輩で、先に手広く自分の事業を進めていた開業医の先生に相談した時に、老人ホーム事業を1つ取っても生半可なものではなく、心臓外科も非常にハードなのに、その2つを同時に行うのは無茶に近い、どちらかに集中したほうがいいと言われまして。

悩んだ末、ちょうどその頃に心臓外科の専門医の試験に受かったのを自分の中の1つの区切りとして、一度メスをおく判断をしました。 最初は事業がうまくいかなければ心臓外科医に戻るかも、という思いもありましたが、1〜2年ならともかく、5年くらい経つともう一度専門医としての症例数を新しく集めなければなりませんから、その時点でもう戻れなくなりましたね。

アグリグループの将来のビジョン

渡辺:アグリグループについて、もう少し詳しく伺えますか。

伊藤:日本だと医療機関は基本的には医療法人でしか運営できないので、医療法人アグリーという法人と、そこを支援するために株式会社アグリケアを作りました。もう1つは遠隔医療を提供する株式会社リーバー。この3つが日本国内にあります。あとベトナムでシステム開発を専門に行うペイシェント・テクノロジーズ・ベトナムという会社を運営しています。そこでは主に自社内の電子カルテ開発やアメリカのIoTヘルスケア機器メーカー用のソフトウェア開発に取り組んでいます。

渡辺:そのようなシステム開発は、アウトソーシングより自社でやった方が、メリットがあるのですか。

伊藤:他社のシステムもいろいろ使っているのですが、ここが使いづらいと思った時に、すぐにそのシステム要件を変えられるかというと、なかなかそうはいかないので、自社で持つ意味は非常にあると思います。特に電子カルテ関しては、保存された医療情報を新しい医療機器の開発に繋げたり、他社が新しい医薬品の開発を行う時にもデータを整形したり抽出できるメリットがあります。ですから自社内にデータ分析や開発ができる人材を揃えることには意義があるだろうと2021年にM&Aをしました。

渡辺:その4法人でアグリグループというわけですね。ではグループとして将来目指すビジョンをお聞かせかいただけますか。

伊藤:私たちのグループとしてのビジョンは「いつでもどこでも誰にでも」です。医療は、ある程度、公平に受けられなければならないというインフラ的な側面が非常に強いのですが、その実現に動くのは今までは医師が中心でした。

しかし実は今、どこの国も医師が足りていない。

日本も同じで、一番人口当たりの医師の数が多い県でも、やはり医師の数は足りないという思いをみんなが持っている。限られた医師の人数の中、能力を拡張するには進化するIoT、AI、ソフトウェアを使う必要がある。その上で、より多くの人になるべく廉価に医療を活用してもらい、より健康になってもらう。そこにチャレンジしていくことが私たちの存在意義だと思っています。

また日本は少子高齢化で医療費が膨らみ続けていますから、同じくIoTやソフトウェア、AIの力を使って、どうコストを下げてエフェクティブに医療を届けていくかも最先端のチャレンジで、やりがいのある分野だと思っています。

渡辺:拠点も新潟を中心に増やしてらっしゃいますが、全国展開も目指されていますか。

伊藤:茨城県つくばみらい市でクリニック事業をスタートし、在宅医療、訪問診療を中心にサービスを提供してきましたが、それらは国のルールで半径16キロ以内とエリアが決められています。範囲を超えた老人ホームや地域の方からの来てほしいというリクエストに応える形で、少しずつ高速道路に沿ってクリニックを増やしていきました。今は茨城県、千葉県、新潟県、東京、埼玉、神奈川、愛知、栃木で31か所のクリニックを運営しています。

現状、日本全体で医療が全くないという地域はほとんどないと思いますが、在宅医療が足りてない地域はまだまだ多い。政府の資料によると、これから在宅患者数のピークに備えなければならない場所が90%以上もある。そういった地域に在宅医療のインフラを広げていくというのが、アグリグループ在宅部門の大きなミッションになっています。

渡辺:具体的にどのあたりのインフラが少ないのでしょうか。

伊藤:東日本が圧倒的に少ないですね。関東周辺も人口当たりの医師の数が少ないので、意外かもしれませんが、茨城県や千葉県、埼玉県が結構、厳しい地域になっています。

多様な人材を歓迎、経営者育成を目指す取り組み

渡辺:これからのグループの中途採用について伺いたいのですが、貴社は他に先んじて65歳定年を打ち出されています。何かお考えがあってのことでしょうか。

伊藤:弊社では70代のお医者さんも働いていますし、定年の65歳でさようならではなく再雇用もしっかりしています。高齢者だから入社できないということは一切ない。ただ、できてまだ10年目の若い会社なので、平均年齢は30代半ばぐらいと、比較的若い人材がグループの中核になっています。とはいえ若さだけでは医療が成り立たない部分もありますから、落ち着いた大人の方にも仲間になっていただいたことで、今まで成長してきています。

渡辺:対象の患者さんの年齢が高いので、合わせた方がいいということもあるのですか。

伊藤:それはあまりないですね。ただ、働ける方の年齢層がだんだん上がってきているのは事実です。介護職や看護師も年齢の高い方がイキイキ働いていまますので、特に年齢や性別で差別するようなことはないですね。

渡辺:社長より年上の方を採用しないという会社も結構あります。

伊藤:僕ももう45歳になったので、会社の中では上の方だと思いますが、例えば部長職以上だと自分より年上の人が圧倒的に多いです。おっしゃるようなことはないかなと思います。

渡辺:年齢は関係ないとして、どんな人を迎え入れたいですか。

伊藤:アグリグループ は大切な行動規範を定めています。それが「GOスマイル、GOポジティブ、GOサンクス」。何事にもまずは笑顔で対応し、前向きに捉えましょう。たとえ辛いことや苦難があったとしても、自分を成長させてくれるトレーニングや糧なのだと認識して感謝しましょう、ということですね。

それに会社の外、例えば家族に対してもこの3つは大切なのではないでしょうか。会社が成長して成功するだけでなく、個人の成長や成功もこの3つを守ることによって実現できると私は信じています。ですからこの行動規範に共感してくれる人に来ていただきたいですね。

渡辺:ご自身の大きなキャリアチェンジを踏まえて、何かアドバイスがございますか。

伊藤:医療や介護は、特に保険診療や保険介護に関しては、売り上げの上限が決まっているので、他の業界に比べると残念ながら大きく利益はあがらない。だからといって、やりがい搾取になってはいけない。医療と介護は世の中になくてはならないインフラで、やりがいは非常にありますから、若い人材ややる気のある人材を集めるのは当然ですが、それに加えてやはり収益性にもこだわらなければならない。そのためには省人化、システム化、ソフトウェアやAIへのタスクシフト、そして能力の拡張を目指す必要がある。医療や介護の分野で世の中に新しい価値を生み出し、しっかりと業績も伸ばしていく。やりがいにプラスして、そういうことに興味のある方にぜひ仲間に加わってほしいと思っています。

やりがいか収益かの二者択一ではなく、世の中への貢献と自分たちの業績をしっかりと両立させていける会社でありグループだと思っていますので、そこに興味がある方にぜひ加わっていただきたいです。

またアグリグループは組織改編をしているのですが、一番大きいのは、31か所あるクリニックに院長をサポートするマネージャーを置いたことです。院長は医療の責任者で、マネージャーは院長と一緒に経営を見る。その二巨頭体制を敷き、経営者を大量に輩出できる会社を目指しています。経営を学びたい新卒や第二新卒の方にも、お声掛けさせていただいて、今頑張ってもらっています。

渡辺:その方たちは最初、事務職として入られるのですか。

伊藤:基本的にはまず相談員という形で地域連携部に入ります。在宅医療はお医者さんと患者さん、老人ホーム、ケアマネージャーさん、病院の相談員さんなど、さまざまな人が関わります。その間に入ってスムーズに連携できるような仕事から始めていただいて、マネージャーを目指してもらう形を行っていますね。総合職というイメージでしょうか。

渡辺:医療関係はビジネススキル的な磨き方が非常に難しいところがありますから、そういった意味ではいい制度ですね。

伊藤:そうですね。やはりお金儲けだけだと、誤ったことになってしまうと思います。だから倫理観は絶対必要なのですけれど、やはり両立しないと地域で存続し続けることができない。最近もピザ屋さんが撤退したとか、イトーヨーカドーが撤退したとか、そういうことがニュースになっていますけれど、僕らが撤退してしまうと、本当に命に関わってしまう。そういう替えが効かない仕事だと思っているので、僕らとしては地域に存続するためにも、しっかりと経営を成り立たせる必要があるということが、大事なところかなと思っています。

渡辺:本日はありがとうございました。