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株式会社ハブ 代表取締役社長 太田 剛 氏
英国PUB文化を日本に広く普及させ、その中で「感動文化創業事業」を展開することを経営理念として、英国風PUB「HUB」「82」を展開する株式会社ハブ(http://www.pub-hub.co.jp/index.html)。
同社設立の経緯から今後の展望について、太田剛社長にお話をお伺いしました。
株式会社ハブ
代表取締役社長 太田 剛 氏
1961年1月4日生
1983年 大阪経済大学経営学部卒業
1983年4月 ㈱ハブ(旧)入社
1995年4月 ㈱りきしゃまんハブ営業部長
1998年5月 ㈱ハブ取締役営業部長
2001年5月 取締役営業統括本部長
2003年5月 常務取締役営業統括本部長
2007年5月 専務取締役事業統括本部長
2009年5月 代表取締役社長(現任)
インターウォーズ株式会社
一人ひとりが人生のCEOとして生きる社会を実現する
人と企業のインキュベーター
インターウォーズ(以下、IW):御社の設立の経緯、事業内容をお聞かせください。
太田 剛 氏(以下、太田):そもそもはダイエーグループの外食事業の一つとして1980年に創業されました。設立の経緯としては、ダイエー創業者の中内がイギリスのある大手小売業者と業務提携を進める中で、現地で接した英国PUB文化に感動したことに始まります。中内はその「PUB文化」を日本でも事業として展開したいと考え、グループ内で事業化しハブを設立しました。
IW:そもそも日本に最初にキャッシュオンデリバリーというスタイルを根付かせたのはハブさんだと伺っております。
太田:もちろん、個人でやられているところは色々ありますし、大阪では立ち飲みの文化もあります。しかし、キャッシュオンというシステムが一般に普及していない中で、イギリスのPUBのスタイル、気軽さという点が、日本のように腰を据えて2、3時間たっぷり飲んで食べて最後に清算、割り勘という仕組みに比べて、非常に合理的でした。
恐らく中内の中では、ダイエーのセルフサービスという一つのシステムと考えが一致したのだと思います。
IW:太田社長と中内さんとの間に、思いを受け取れるような場を共有したり、お会いしたりするような接点はあったのですか?
太田:そうですね。特に頻繁になったのはHUB浅草店ができた時で、そこには月に1~2回来店されておりましたので、お会いしていました。その時にお話し頂いた中で、今でも鮮明に残っているのは「日本の居酒屋文化とは異なる新しいアルコールの文化を日本に広めることがハブの使命だ」との言葉です。
IW:今後ハブさんの企業として目指すところをお聞かせください。
太田:これは経営理念にもなっておりますが、英国PUB文化を日本に広く普及させ、その中で「感動文化創業事業」を展開していきたいと考えています。日本の外食産業はトレンドをいち早くキャッチしながら上手く変化に対応していくという点が、ある意味では素晴らしいと思っています。もちろん自分たちもその恩恵で楽しい空間を提供してもらっておりますが、私達が目指しているのは、イギリスでは何百年と歴史のあるPUBという文化を、日本の中でも定着させ、育てていくことです。
IW:昨今、外食産業が厳しい中で御社は右肩上がりで成長されています。その秘訣、強さの要因はどんな点だと思われますか?
太田:右肩上がりと言えども、他社さんから見れば本当にスローな展開で、もっと一気に拡大出来るのではないかと見られることがあると思いますが、私達は既存店舗数の10%増ということで、基本的には身の丈にあった成長をすれば良いと考えています。これは経営理念の中で謳っているように「PUB文化」ですから、文化を定着させるのには時間がかかるのは承知の上で、一時的に大きな盛り上がりをするというよりも、20年後も30年後も成長し続けているような企業でありたいですね。
それに、私は既存店の10%というのは決してスピードの緩い成長ではないと思っています。もちろん、決して無理をしないという保守的な考え方ではなく、人財育成をしっかりと行いながら、店舗を預かるマネジャーが経営理念をしっかりと理解した上でマネジメントをしていかなければならないということです。
そこを着実に行うことが永続的な成長の一番の要因なのではないかと思いますね。単純にお店を作って、システムだけで回るようなものではありませんから。
IW:経営において、太田社長が大切にしていることはどんなことでしょうか?
太田:結局は同じ話になりますが、経営理念の実現について言えば「PUB文化」を日本に定着させることですから、文化を創っていく為には、大変に地道な活動をしていかなくてはいけません。それを支えてくれているのは、やはり従業員なので、私達にとって従業員は非常に大切な存在です。お客様に満足のいくサービスを提供してくださいと言うからには、まず従業員が満足して私達の事業に賛同してくれていなければなりません。そういう意味で、人を大切にするということが経営の中では最も大事だと思っています。
IW:現在、何店舗展開していますか?
太田:70店舗です。
IW:御社のこれからの展望として、いつまでに何店舗という目標はございますか?
太田:ビジョンとしては、日本の中で「英国PUB文化を広める」ということに、ただただ邁進することでありますが、その業容としては2017年までに売り上げを100億円、店舗数を130店にしようということを一つの計画として持っています。これは私達の事業の中で、100億円になって初めて、大人の仲間入りと言われることがあるのですが、それを達成するためには130店の店舗数が必要だと考えているからです。
IW:ハブさんのスタイルは、元々イギリスのものということもあり、日本だけではなく、海外への展開というのはお考えとしてはいかがですか?
太田:実は海外に展開するお話もたくさんいただきますが、これに関しても経営理念に沿って言えば、日本において「PUB文化」を広めるということが我々のミッションであると考えています。国土で言えば日本の約3分の2、人口は約半分のイギリスで、減少しているとは言え、約5万7000軒のPUBがあると言われています。そう考えると、まだまだ日本の中には出店の余地がある、出店しなければならないエリアがたくさんあるはずです。そこが完成した時に次の展開があるかもしれませんが、日本の中で文化として定着させていくということが私達のやりたいこと、やるべきことだと考えています。
IW:御社の社風や社員の方々についてお聞かせください。
太田:基本的にはこの事業、飲食業が好きなことが大前提となると思います。飲食業だけは本当に好きな人でなければ決して続くものではありません。その中で感じるのは、人が好きな人間が多いということ。人間が好きだということで、私達は社風として家族のような企業であると思っています。もちろん、それが甘えであったり、悪い意味での家族ではだめですが、しっかりとお互いが成長するために、例えば自分の兄弟に成長してもらうためにあえて厳しいことを言うとか、親であればしっかり子供として育って欲しいという、そういった厳しさを持った家族のような企業というのが私達の社風だと思っています。
IW:2011年には企業内大学「ハブ大学」も開校され、非常に人財教育に力を入れていると伺っておりますが、社員の教育という点に関してはどうお考えですか?
太田:飲食業というのは、現場で先輩の背中を見て学ぶという流れが、ずっと続いてきたのではないかと思います。それも非常に大事なことですが、やはりマネジメントをしていく中では、上手に人を掌握してよいチームを作るために、知識面もしっかりと身に付けていなければいけません。そういった意味では、現場で実体験をしながら学んでいくことも大切ですが、同時に現場から離れたOff-JTでもしっかりと学ぶ機会を得るということが重要なのだと思います。
仮に将来独立したいとなった時でも、別の会社に行くことがあっても、どこでも通用する人間になって欲しいということで「ハブ大学」という企業内大学を設立いたしました。
IW:「のれんわけ」制度があると伺っていますが、それはどのような制度なのでしょうか?
太田:当社に入って来る従業員は、将来自分の店を持ちたいという人間もたくさんおりますので、独立に向けた道も作っておきたいということで制度化しました。ただ、現時点ではハブ自体が成長の過程の中にあり、人財が「のれんわけ」でどんどん出ていっていいという環境ではありません。この「のれんわけ」制度は、恐らく今後10年くらいの中で、どうしても自分で店を持ちたいという、ハブに貢献してくれた、一人でもやっていけるだろうと会社が認めた人間に対して、適用することになると思います。そういう意味では今はまだ実験段階ですね。
また、私達の目指すところは「PUB文化」の普及ですから、基本的に『HUB』でなければならないのではなくて、同じ志で、例えば地方で英国PUBをやりたいというメンバーについては我々としても協力していきたいと考えています。そのひとつの手段として「のれんわけ」制度を考えております。
IW:話は変わりますが、『HUB』ともう一つの業態『82(エイティトゥ)』について簡単に教えていただけますか?
太田:いずれも業態としては英国PUBということで同じですが、基本的に『HUB』は若いお客様、20歳~30歳くらいまでがコアターゲットになります。しかし『HUB』が何年たってもその年齢層以上のお客様が残らないということや、お客様からもう少し落ち着いたお店にして欲しいという要望も踏まえて、「大人のためのセカンドハウス」というコンセプトの下、『82』を展開しています。つまり私達としては、『HUB』の卒業生を受け入れられる店ということで、ビジネス立地を中心に、どちらかと言うと落ち着きのあるお店というのが一つの考え方です。
メニュー特性でいえば、両方とも英国PUBなのでビール、エールは当然ですが、『HUB』は若い女性も多く、カクテルのバリエーションを充実させています。一方『82』については、お酒飲みが最終的に行き着くところはやはりウイスキーの奥深さということで、シングルモルトを中心としたウイスキーをメインに品揃えをしています。
IW:『HUB』と言えば、スポーツのイベントがたくさんあると思いますが、スポーツに限らず店内で行うイベントに関してはどのようなお考えをお持ちですか?
太田:サッカーについては一番分かりやすくて、イギリスのPUBの中で地元チームを応援するというのはPUBの一つの文化なので、日本で英国PUB文化を広めていくという視点からも必要なコンテンツだと考えています。
ただ、サッカー以外に、もちろん日本には日本のスポーツもありますし、今はツールドフランスを育てていこうと言うことで、もちろん一朝一夕で上手くいく訳ではありませんが、提供するコンテンツとして、あまり制約しようとは考えていません。
今後も英国PUB事業一本で進めていく上で、どうしてもマンネリ化は避けられないと考えています。しかし、その「大いなるマンネリ」の上に「驚きと感動」があることが重要で、それがお客さまに対して安心して使える、飽きない「場」を提供することにつながると思っています。マンネリと共に変化というのは必ず必要な訳で、それがお客様に私達のお店を飽きさせないということにつながると思っています。そういう意味ではスポーツに限らず、『HUB』に行けば毎日、毎月、何か変化があるよねと感じてもらえるようなイベントや店作り、そういうことについては時間をかけて育てていきたいと考えています。
IW:太田社長のご自身の夢というのは何かありますか?
太田:そうですね。色んな夢がありますが、今、個人的に本気で考えているのは、現在10歳、7歳、3歳の自分の子供たちと、彼らが成人したら『HUB』で飲みたいなということです。そして、その次の目標として持っているのは、その子供たちの子供、つまり自分の孫と一緒に『HUB』で飲みたいということです。
これは単純に、彼らと酒を飲みたいというだけではなくて、それを実現するには、会社がそこまで存続し、元気な状態でいなければいけないということです。私達が広めようとしている英国PUB文化が、一過性の事業に留まり、今は聞かないな、というのではなく、20年後も30年後も、広く愛される文化として根ざしていて欲しいと考えています。
もちろんその夢の実現には90歳くらいまで生きていなければなりませんが、その時にPUBと言えば『HUB』だよねと認識されているような、いつまでも元気な企業であって欲しいということが自分の中での目標でもありますし、実際に孫と飲めたら一つ大きな夢が実現したことになります。
IW:最後のご質問になりますが、御社に興味がある方や求職者へのアドバイスがあればお聞かせください。
太田:私達は企業文化を大事にしたいと考えております。技術面は後から何とでも出来ますが、マインド面に関しては私達の企業風土に馴染んでもらうためには、予め違う色がついているとなかなか難しい部分があります。
そのため、通年採用に関しては、クルーさんとしてある程度の経験を経て実績を残したメンバーが応募してきた時に採用をしております。やはり、私達の考え方や会社の良いところも悪いところも知っていただいておりますので。
新卒採用の場合であれば、真っ白なままですから、情熱さえあれば、この事業が好きということだけで飛び込んでくれても、全く問題はありませんが、転職者ということであれば、色んな経験を積まれた上で、新しい会社に飛び込むということですから、単に興味があるからとか、好きだからというだけでは、企業はなかなか採用出来ません。
学生さんは、ハブに入社する動機として、教育のシステムが充実しているとか、自分が成長出来そうだという理由で来られる人が多いですが、転職者の場合は、それではどこも必要としません。自分がこの企業に入ればこんなことが出来る、自分が会社に入るとこんなメリットがあるということを一つでも良いので、武器として語れるもの、もしくは証となるものを持たれることが大事なんじゃないかと思います。
IW:本日はお忙しい中、ありがとうございました。